公共交通事情踏まえた軽自動車税対策を

2013年11月23日 11:33

 自動車取得税の廃止と引き換えに急浮上した「軽自動車税」の引き上げ。現行7200円(自家用乗用、660CC)の税を一定程度引き上げる方針のようだが、暮らし直撃の消費税引き上げに加え、庶民の足の軽自動車税引き上げは軽自動車に頼らざるを得ない地方の低所得者層に対する「配慮ない冷策」といわれても仕方ない。

 車を『ぜいたく品』と錯覚する人の発想か。軽自動車は地方を問わず、ほぼ日本全国、どこにいても生活に欠かすことのできない「暮らしの必需品」になっている。取得税廃止の代替に軽自動車税を増やすくらいなら、自動車取得税の廃止はすべきでない。

 自動車取得税は自動車を取得するときにかかる税だが、保有税や重量税は車両を持ち続ける限り納めるべき恒常的な税だ。軽自動車保有者にとってかえって税負担が重くなることになる。

 地方自治体の首長などには軽自動車が大型化し、環境への影響も1000CC未満の車に比較してそう変わらないので、負担水準を見直すことを期待するとの向きもある。

 現行2000CC未満であれば3万9500円、1500CC未満なら3万4500円。1000CC未満なら2万9500円。これに比べ、軽自動車は7200円と格段に安く感じるが、電車・バスなど公共交通機関が極めて充実し、蜘蛛の巣のように走っている都会に比べ、地方は日常の買い物、日常の移動手段に車は欠かせないものになっている。

 地方では1世帯に2台以上は当たり前で、3台、4台、5台と保有する家庭もある。成人の1人に1台。公共交通が十分でないエリアがほとんどの地方ではこれが当たり前だ。

 軽自動車は660CCと排気量が大きくなり、重量も重くなっていることから道路への負荷も1000CCに比べ、大差なくなっていることは事実。しかし、車が地方での暮らしにとって必需品であることを考えれば、珍しくもない例だが、ファーストカーは2000CC未満、残り3台は軽自動車という家庭の場合、車税は年間6万1100円で済んでいたものが、軽自動車税が例えば倍増14400円になった場合、8万2700円に膨れ上がる。家庭の収入増がない限り、負担増カバーのために4台とも軽自動車にしなければならなくなるだろう。

 税収増が叶う地方自治体は別として、そこに暮らす人々にとっては「田舎泣かせの増税」となろう。一部でささやかれる倍増は絶対に避けるべきといわなければならない。

 太田昭宏国土交通大臣も軽自動車の税負担増には慎重な姿勢だ。ただ引き上げそのものを否定するものでもない。

 太田大臣は「総務省の自動車関係税制のあり方に関する検討会の報告書で環境性能等に応じた課税についての提案や軽自動車税の見直しなどが示されているという状況にあるが、国交省としては軽量車から重量車までを含めた自動車全体のグリーン化が図られるよう環境性能の高い新車への代替を促すことが重要と考えている」としたうえで「軽自動車税については軽自動車の経済性や使いやすさから、公共交通機関の不便な地域を中心として、というより全国的かもしれないが、一家に何台もあってそれが生活そのものになって使われているということを考えると、税というだけの財源の問題で上げるということが直ちに直結するということについては、如何なものか。慎重に考えたいと思っている」としている。

 ただ、一方で「国・政府全体の考え方というものがある」とも述べ、「日常生活の足として使われているという実態を十分踏まえ、適切な負担水準であることが必要であると考えている」とし「平成25年度与党税制改正大綱等に沿い、具体的に議論を深めていく」と、一定額の水準の引き上げに理解を示している。経産省・国交省・財務省のやり取りが上げ幅を絞り込む格好になっていくのだろう。

 自動車総連によると1997年に消費税率が3%から5%になったときに国内需要は100万台を超えて落ち込んだという。今回、8%になったときには58万台、10%になったときには93万台の国内需要の落ち込みが見込まれ、それは駆け込みの反動ではなく、永続的につづくという見方を示しているだけに、消費税に軽自動車税まで引き上げられれば、その影響はさらに拡大しよう。

 自動車取得税廃止の代替財源が必要で、軽自動車税の見直しが避けられないというのであれば、年収450万円未満の家庭においては、軽自動車税を現行のまま据え置く、あるいは2台目以降は現行の税額にするなどの対策が求められよう。

 一方で、新たな財源として2000CC以上の自動車税は1・5倍程度に増額し、エコカーは据え置く、あるいは400万円以上の自動車においては高級車保有税を創設するなど、高額商品を対象とした税の創設を図り、応分の負担を高額所得者から得ることを考えるのも一案と思われる。高額所得者が税として社会に還元するというシステムも悪くない。多くの人に高級車を走行させて頂ける社会が来れば、社会も潤うことになる。ともあれ、軽自動車への増税は公共交通事情を踏まえた賢明な策が求められよう。(編集担当:森高龍二)