前月11月、東京市場の「需給」は改善したのだろうか。2市場信用取引残高(一般信用と制度信用の合計)の信用買い残は、11月1日の3兆円から22日の2兆7000億円へ約10%減少し、信用倍率は5.39から4.23に低下した。しかし裁定買い残のほうは同じ期間に3兆5000億円から4兆円へ約14%も増えている。信用取引が「5月23日」を乗り越えても、先物主導の日経平均の上昇に伴って先物の裁定買い残が積み上がっていては、需給の改善は「日暮れて道遠し」である。
それに加え、特に中・小型株の需給に影響し、その株価を低迷させかねない「節税対策売り」もある。一般の投資家だけでなく、安定株主のはずのオーナーまで「税金が2倍になる前に年内に手放そう」と、売出しをかけて処分する始末。12月は、証券優遇税制で売却益の税率が10%ですむ期限の12月25日がだんだん迫ってくるが、蔵出しの現物売りなので節税対策売りがどれだけ出るか予測がつかない。需給が株価の頭をおさえ、足を引っ張る日々はまだまだ続きそうだ。
需給の不安に加え、見かけは好調な日本株も、その中身には危うさを秘めている。
日経平均が終値ベースの年初来高値を更新した前週も、TOPIXとの間のNT倍率が大きく開いたことでわかるように、上がるのは「御三家」のような日経平均寄与度が大きい値がさ株ばかりだったのが実態。11月22日と29日の株価を比べると、「御三家」筆頭のファーストリテイリング<9983>は2000円高で5.4%も上昇したが、主力株でも日経平均寄与度がそこまで大きくなければどうか。輸出関連株の筆頭格のトヨタ<7203>は同じ期間にドル円が1円、ユーロ円が3円も円安方向に動いていたにもかかわらず、たった40円、0.63%しか上昇しなかった。ソニー<6758>に至っては8円安で0.4%の下落を喫していた。
日経平均採用225種以外では、上がるのはもっと望み薄。9月の新規採用有力候補だった任天堂<7974>の株価は同じ期間に410円安で3%も下落し、1.8%上昇した日経平均とは逆行安になっていた。中・小型株になると買われるのはテーマ株の循環物色か、低位株のマネーゲームか、いわゆる仕手系銘柄。主力株が下げた日に「幕間つなぎ」でランキングに顔を出すのは、そんな銘柄ばかりだ。
日経平均の派手な上昇ぶりとは裏腹に、日本株の実態はすきま風が吹き込んで寒々しい。それはたとえて言えば、主力選手と控え選手の実力の落差が激しいスポーツチームのようなもの。主力選手がフル稼働すれば調子に乗って連勝するが、主力にケガ人が続出したら成績がボロボロになってしまう。そんな選手層の薄い〃チーム事情〃を抱えながら今週、15942円のザラ場ベースの年初来高値を更新できるかとか、16000円台に乗せられるかとか、口に出すのもおこがましい。
ここは、背伸びを控え、アメリカ株の好調さや為替の円安のような外部環境の良さを活かして〃チーム戦力〃の底上げ、充実を図るべき時なのではないか。日経平均の上昇よりも値上がり銘柄数をもっと増やす。トヨタのような時価総額の大きい銘柄の株価を上昇させてTOPIXをかさ上げし、いびつなNT倍率を縮める。商いをもっと活発にして売買代金2兆円を割り込まないようにする。そうやって日本株の木の幹を太く、たくましくしていかないと、海外勢の先物買いでひょろっと細長く伸びた日経平均は、逆風が吹けばポッキリ折れてしまうだろう。そうでなくても「いつ急落するかわからない」と、投資家は高所恐怖症におびえ続けることになる。
もっとも、外部環境は良いと言っても、史上最高値更新の快進撃を続けてきたNYダウは、前週は4日間とも高値警戒感でマイナスまで急落する時間帯があった。トレンドの節目と考えれば今週はあまり期待できないかもしれない。それは前週、予想外の高騰をみせたユーロについても言える。
というわけで、今週は日本株が中身の充実を図って、日経平均終値の変動レンジは前週とほぼ同じ15400~15800円とみる。「アメリカ雇用統計待ちの様子見」で薄商いが続くようでは、まだまだ中身はスカスカだ。(編集担当:寺尾淳)