ウォルフスブルグ「アウトシュタット」のシンボル「ガラスの塔」には、顧客に手渡す前の新車が収まっている。ウォルフスブルグは北ドイツ、西のハノーバーと東のベルリンの中間に位置するニーダーザクセン州のVW本社がある企業城下町。
ドイツの自動車メーカー、フォルクスワーゲン(VW)とそのグループが極めて元気が良い。2013年1月から12月に同グループが世界で販売したクルマ(新車)は総計950万台(前年比104.8%/大型商用車を除く)に達し、日本のトヨタ・グループ、米GMに次ぐ世界第3位の自動車メーカーグループだ。
しかしながら、1位のトヨタや2位のGMには無い強みがVWにはある。それはグループ内に多彩で個性的な乗用車ブランドを持っていることだ。それは、本体であるVW(独)傘下に、シェコダ(チェコ)やセアト(スペイン)のような小型大衆車ブランドから、クオリティ・ブランドのアウディ(独)、ブガッティ(仏)やベントレー(英)の超高級乗用車ブランド、そしてランボルギーニ(伊)やポルシェ(独)のスーパースポーツ・メーカーが顔を揃えている。加えて、スカニア(スウェーデン)やMAN(独)の大型商用車ブランドも傘下にある。
ところで、VW本社所在地であるドイツ・ウォルフスブルグのVWでもっとも古い自動車工場跡地にテーマパーク「アウトシュタット(Autostadt/自動車の街)」がオープンしたのは2000年6月。同年10月から行なわれたハノーバー万博に協賛して作られたVWグループのテーマパークだ。
アウトシュタットはウォルフスブルグ駅に直結していて、世界のVWグループ・メーカーのパビリオンや博物館、展示場、ホテルなどで構成している。と、同時にVWグループの新車を顧客に直接手渡すカスタマーセンターでもある。
つまり、この施設は子供たちにVWグループが目指す未来のクルマとクルマ社会に触れさせ、楽しみながら考えさせるテーマパークであり、同時に、その親たちに最新型のクルマを手渡し、クルマ使った生活を快適に過ごす方法を示し、新しいモータリーゼーションを示すための設備でもある。つまり、年中VWグループのモーターショーとアトラクションが行なわれる広大な施設なのだ。
なかでもカスタマーセンターの機能は興味深い。ドイツをはじめとするEUでは、購入したクルマを生産する工場まで出かけて新車を受け取るという習慣がある。そんな習慣をカップルや家族との楽しいイベントにしよういう構想で実現したのがこのアウトシュタット・カスタマーセンターだ。
全国各地のVWグループ・ディーラーでクルマを発注したユーザーは、希望すれば、ここアウトシュタットで自分が発注した自分のクルマを受け取ることができる。こうした顧客は施設の入場や敷地内のホテル(あの高級5ツ星ホテル、リッツカールトン)の宿泊が優遇される。納車前日にホテルにチェックインして博物館やアトラクションを楽しみ、豪華なホテルでディナーに舌鼓をうち、翌日指定された時間に新車を受け取って、自宅までドライブ──というイベントが定着しているのだ。
納車を待つクルマはアウトシュタットのシンボルである、ガラスの塔に順番に収まっている。オープン以来、アウトシュタットのカスタマーセンターで引き渡された新車台数は、ドイツ国内でVWグループによって個人顧客に納車された台数の30%にあたる140万台以上。1日に約550台という世界最大の自動車デリバリーセンターなのだ。
家族でアウトシュタットに出かけて新車を受け取って自宅までドライブ、そんな経験をした子供たちが大人になったときに、どうするか? そこまでのマーケティングをVWグループが狙っているのかも。
世界一の自動車メーカー、日本のトヨタもそろそろ何か考えないと──。(編集担当:吉田恒)