【証券決算】前期はアベノミクス相場で大盛況。今期は前途に不安が募るばかり

2014年05月13日 07:12

 ■大和は純利益がバブル時代のピークを超えた

 単独上場の大手証券2社(野村HD、大和証券グループ)と、ネット証券大手5社(SBI証券、楽天証券、松井証券、マネックス証券、カブドットコム証券)の2014年3月期決算が出揃った。

 野村HD<8604>の収益合計(金融費用控除後)は14.1%減の1兆5570億円、当期純利益は99.2%増の2135億円。大和証券グループ<8601>の営業収益は22.3%増の6428億円、営業利益は120.2%増の1845億円、当期純利益は132.4%増の1694億円。SBIHD<8473>傘下のSBI証券の営業収益は71.2%増の742億円、営業利益は185.7%増の327億円、当期純利益は168.3%増の180億円。楽天<4755>傘下の楽天証券の営業収益は86.4%増の457億円、営業利益は217.0%増の223億円、当期純利益は124.8%増の126億円。松井証券<8628>の営業収益は91.8%増の398億円、営業利益は165.7%増の270億円、当期純利益は153.6%増の163億円。マネックスグループ<8698>傘下のマネックス証券の営業収益は63.8%増の375億円、営業利益は192.6%増の142億円、当期純利益は10.0%増の83億円。カブドットコム証券<8703>の営業収益は77.8%増の233億円、営業利益は198.2%増の115億円、当期純利益は189.4%増の66億円だった。

 一般企業の売上高にあたる営業収益は野村HD以外は増収。野村の連結決算(米国基準)の減収は野村不動産HDが決算の連結対象だったためで、連結ではなく単体決算(日本基準)では43.4%の増収だった。営業利益は出していない野村HD以外は軒並み2倍を超え、当期純利益は野村HD、マネックス証券以外の5社は2倍を超える大幅増益で、野村も99.2%増なのでほぼ倍増とみなせる。全般的に非常に好調な決算で、大和証券グループの当期純利益は日経平均が史上最高値をマークしたバブル時代の1989年度の1640億円を上回り、24年ぶりの過去最高を記録した。SBI証券と楽天証券も営業収益、純利益が過去最高になっていた。

 業績好調の理由はアベノミクス相場で株式市場が活況を呈したことで、日経平均は5月23日と12月30日にピークをつけ、証券会社の売買手数料、営業収入に直結する東証1部の日々の売買代金は2~3兆円台のオーダーを当たり前のように出していた。

 ■「アベノミクス相場終結宣言」を出したJPX

 今期、2015年3月期の通期業績見通しは各社とも発表してない。それは業績が相場環境に左右される証券業界では長年の慣習。それでも証券業界各社の今年度の営業収益の動向を推理できるものはある。それは東京証券取引所、大阪取引所を管轄する日本取引所グループ(JPX)<8697>が発表した3月期決算で、前期の連結業績は営業利益2.6倍、当期純利益2.7倍と絶好調だったが、今期の連結業績見通しは一転、営業利益は32.5%減、当期純利益は29.6%減の大幅減益決算。その前提になる東証全市場の株券の売買代金は、前期は88.8%増だったのが今期は28.7%減の見通しで、それを各社の業績に当てはめると「平均すれば営業収益は3割減」と推理することができる。そうなれば減益はまず避けられない。

 4月28日正午にJPXが決算を発表した直後、野村HDも大和証券グループも株価が下落して年初来安値を更新していた。この日の「東証全市場の売買代金28.7%減」という発表は事実上「アベノミクス相場終結宣言」に等しいとみていいだろう。

 「アベノミクス相場は、昨年12月30日の大納会に安倍首相がやってきた時点で、日経平均が年初来高値をつけてハッピーエンドだった」という見方がある。今年1月から株式や投資信託の売却益、配当金、分配金にかかる税率が2倍の20%に引き上げられた(建前上は証券優遇税制を廃止して本則の税率に戻した)時点で、多くの投資家が逃げてアベノミクス相場は終わっていたというのである。1月からNISA(少額投資非課税制度)が始まったが、株を買ってすぐに売ると100万円の非課税枠を早々と使い切ってしまい、デイトレのような回転売買に向いていないために証券業界が望む売買代金の増加にはあまり貢献しない。それどころか、カネのかかる口座開設特典や売買手数料の割引キャンペーンなどを打って、世話の焼ける投資の初心者をわざわざ呼び込むので、NISAは証券各社のコストアップ要因になっている。

 アベノミクス相場の終焉を裏付けるように今年の日経平均は前年末のピークを一度も上回れないまま推移し、売買高は20億株割れ、売買代金は2兆円割れの水準の薄商いが定着してしまっている。証券各社は、今年度の株式の売買手数料が前年比で大幅に減少することを覚悟せざるを得なくなっている。

 業績を見ても、7社の中で1~3月期の四半期純利益が前年同期を上回った会社は1社もなかった。日経平均が月間523円安になった4月の売買代金実績も、SBI証券は3月の12%減、楽天証券は9%減になったと発表している。すでに今年の年頭から株式市場は昨年までの勢いを失ったまま。現状のままでは証券業界の前途の不安は募るばかりだろう。その不安がはっきりした数字になって現れるのは、4~6月の第1四半期決算が発表される7月末頃になりそうだ。

 とはいえ、今年度が始まってまだ2ヵ月足らず。あと10ヵ月以上残っている。グッドニュースなのかバッドニュースなのかわからないが、株式市場、証券業界にはこの先、何があるかわからない。(編集担当:寺尾淳)