自ら定めた「多選禁止」を自ら廃止 問われる多選の是非

2014年06月07日 08:09

 今月、東京都中野区長選挙が行われる。無所属の新人2名とともにこの選挙に立候補をしているのが、現在3期目である現職の中野区長、田中大輔氏(無所属、自民・公明・維新推薦)だ。一見するとありふれた地方選挙のようだが、この選挙に注目するのには理由がある。それは、4期目を目指す田中区長が自ら定めた「区長は連続して3期を超えて在任しないように務める」とする多選自粛条例を撤回して出馬をしたからだ。

 田中区長は、2002年に多選禁止をチラシで訴えて選挙を戦い、区長に選ばれた。区議会では反対の声も大きかったが、田中氏はその反論を押し切って多選の弊害を訴え、最後は与野党一致で条例を決めた。今回田中氏は、議会を説得してまで区の憲法ともいえる自治基本条例に盛り込んだ「活力ある区政運営の実現のため、区長は連続3期を超えて在任しないよう努める」と定めた第7条から在任期間のしばりを外す改正案を区議会に提案し、区議会の反対にあったものの結果的に4期目を目指して立候補するに至った。

 田中氏は区長に立候補するまで区の職員として、4期16年にわたって中野区長を務めていた神山好市氏のもとで働いていた。長期にわたる神山区政のもとであったからこそ、田中氏の訴えるマンネリ体制と多選の弊害が区民の心に響いたのだろう。自らが3期目を終え、田中氏の多選に対する考え方は明らかに変化している。この考え方の変化こそ、「多選の弊害」そのものではないだろうか。

 ただ、継続性ある行政運営という観点から見れば一人のリーダーが長きにわたって行政のトップに立ち続けることは必ずしも悪いことではない。区民が継続性ある区政を望むのであれば、田中氏が4期目を迎えることは間違ったことではない。今回の区長選挙では、この多選自粛撤回という区長の判断をどのように区民が考えるかが一つの大きな焦点となるだろう。

 かつて多選自粛条例を全国の自治体に先駆けて制定した埼玉県の上田知事は、議会で次のように述べている。「規律で何かを制限することではなくて、地域地域で、自己決定、自己判断、自己責任という、そういう部分が地方自治の醍醐味ではないか。」これからさらに地方分権が進んでいこうとしている今、上田知事の言葉は重みを増している。中野区民の決断を注視したい。(編集担当:久保田雄城)