甘利明経済財政・再生相は「成長戦略なり骨太なりには、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の改革について記載する」と明らかにした。安倍首相から債券に偏っているGPIFの資産運用について見直しを前倒しするよう田村憲久厚生労働相に指示していたことをうけてのものだ。
国民が払った国民・厚生年金の保険料は年金積立金管理運用独立行政法人が一括して運用している。英語名のガバメント・ペンション・インベストメント・ファンドの頭文字をとってGPIFと呼ばれる。運用資産は129兆円と世界最大の年金基金だ。GPIFの現在の基本的な資産構成では、日本株の基準比率は12%。2013年末は株価の上昇を受けて、その比率は17%まで上昇している。圧倒的に構成割合が高いのは国内債券で2013年末の運用比率は55%を占めている。
GPIFの運用委員長、米沢早大教授は株式比率で20%を視野に入れると表明。大和証券では「これを前提にすると3.6兆円の株式買い需要が発生する」と分析する。GPIFと運用の歩調を合わせる国家公務員共済組合連合会などをあわせると、その額は7.6兆円。昨年の株高をけん引した海外投資家の買越額(15兆円超)の半分に相当する。さらに、日本株を買い増す代わりに GPIFが売却する国債を日銀が購入すれば、追加金融緩和の効果が生まれ、「日経平均を10%押し上げる」との見方もある。
その一方で、厚生労働省は6月3日、公的年金の長期的な財政について8つのケースの見通しをまとめた。しかし今回の試算は働く人が増えず実質経済成長率がほぼ横ばいの3つのケースで41年度までに5割を下回った。最悪シナリオでは36年度に50%、55年度に39%まで下がり積立金は枯渇するとしている。運用がうまくいかない場合のリスクは度外視した試算でも、積立金枯渇のリスクはかなり高いのだ。
これでは、GOIFの改革は、短期的に株価を吊り上げることが目的のように見えてしまう。運用改革は必要だが、株式や外国債券の比率を増やせば、株価下落時や円高で年金資産の目減りも大きくなる恐れがある。先の厚生労働省の試算では、ただでさえ積立金の枯渇が心配されている。そのうえさらに、運用の失敗による資産の目減りリスクまで抱え込むことになるのだ。公的年金のほかに確定拠出年金(日本版401K)という制度もある。にもかかわらず、公的年金までリスクを取りに行く必要はあるのだろうか。年金拠出者は「ノー」という機会も与えられることなくこのリスクを押しつけられることになるのだ。この事実を私たちは、よく考えるべきだろう。(編集担当:久保田雄城)