東証の取引時間拡大はこれまでに何度も議論されてきたが、実現していない。背後には証券会社間の利害闘争が見え隠れするが、グローバルな取引所間競争が進む中で、活性化につながる答えが出せなければ、世界で存在感を示すことはできない。
日本取引所グループ(JPX)<8697>が運営する東京証券取引所は、証券市場の活性化に向けて株式の売買時間の拡大、夜間の取引市場の創設などを検討している。東証は昼休みを挟んで、午前9時から午後3時までとなっている売買時間を拡大するかどうか、有識者を交えた研究会を設けて検討を進めてきた。明らかになった報告書の素案では、午後3時にいったん取り引きを終えたうえで、昼間は仕事をしている人たちが取り引きできるよう、午後9時から11時を軸に「夜間市場」を開く案と、アジアの投資家らを呼び込むために午後3時半から5時を軸に「夕方市場」を開く案の2つが示されている。
実はこの議論、今に始まったことではない。取引時間拡大を議論する東証の研究会は今年2月にから、毎月1回のペースで議論を進めてきた。個人投資家を多く抱えるネット証券を中心に、取引時間拡大の要望が強まる中で、日本時間の夜に取引できる海外市場に流れた投資家を、東証に呼び戻したい日本取引所グループ(JPX)が、実施時期や手法を議論する場として立ち上げたものだ。
インターネット証券会社が強く実施を求める夜間取引に対し、対面販売を主力とする大手や中小の証券会社は猛反発している。営業マンや店舗を抱える対面型証券は夜間取引に対応するためのコスト増が深刻だからだ。代案として浮上した「夕方」案に加え、通常の取引終了時間を現在の午後3時から延長すべきだとの主張もあり、いずれも譲らぬ状況だ。一方で取引時間の拡大そのものに反対する声もあり、出口は見えない。
「夜間取引は日中の市場と比べて投資家が限られるため、流動性が確保されず、公正な価格形成が損なわれる」というのが反対する側の主張だ。しかし、多くの投資家は東証の取引時間が短いことをリスクだと感じている。東証が取引を終了しても上海、シンガポール、香港などのアジアのマーケットは取引を行っている。アジアの市場で大きな動きがあっても、日本の投資家は指をくわえて見ているしかない。さらにその後は、ヨーロッパのマーケットが次々と開く。リスクをヘッジしたい個人投資家や、より多くの投資チャンスを得たい投資家は大阪証券取引所の先物取引を利用しているのが現状だ。
東証の取引時間拡大はこれまでに何度も議論されてきたが、実現していない。東証の研究会が8月中旬までに出す予定の報告書では、「両論併記どころか、4論や8論になるかもしれない」という見方もある。グローバルな取引所間競争が進む中で、活性化につながる答えが出せなければ、世界で存在感を示すことはできない。(編集担当:久保田雄城)