警察庁によると、認知症による行方不明者の届け出は2012年で9,607人分あり、13年には約7%増加して1万300人にものぼった。この数はあくまで暫定値であり、13年以降新たに行方不明となった者と、報告を受けていない数を想定すると実際はさらに膨らむと予想されている。
7月15日、国立長寿医療研究センターは、認知症によって徘徊する高齢者の調査研究に乗り出したことを発表した。警察庁によると、認知症による行方不明者の届け出は2012年で9,607人分あり、13年には約7%増加して1万300人にものぼった。この数はあくまで暫定値であり、13年以降新たに行方不明となった者と、報告を受けていない数を想定すると実際はさらに膨らむと予想される。国立長寿医療研究センターは、認知症を患う人は12年で462万人とし、軽度の者を含めた場合には65歳以上の高齢者のうち15%に値するとしている。今回行われる調査研究では、自治体や警察などの協力を経て無事家族のもとに帰れた事例などをもとにして、高齢者の徘徊の実態を把握することを目指す。
自治体では独自の対策を行っているところもある。東京都町田市では12年4月から「高齢者あんしんキーホルダー」の普及を進めている。キーホルダーには本人確認番号が記載されており、この番号によって本人の氏名や住所、緊急連絡先などの情報を把握することができる。万が一外出先で倒れたときにも迅速に本人確認が行え、家族に連絡を届けることができる。またGPSを用いて高齢者の現在置情報の提供も行っている。
認知症を患う高齢者の徘徊は社会問題として意識され、積極的な対策が図られている。しかし一方で、07年12月に愛知県大府市で起こった認知症の男性による鉄道事故は多くの人に衝撃を与えた。当時91歳の男性は要介護4で徘徊症状があったが、電車にはねられて死亡したことを受け、JR東海が遺族に損害賠償を求めて訴訟を起こした。第1審の名古屋地方裁判所は男性の妻と息子に約720万円の支払いを命じ、第2審の名古屋高等裁判所では90歳を超える妻に対してのみ約360万円の賠償を命じるという判決が下された。事故当時、男性の世話をしていた妻自身も要介護1と認定されており、徘徊を止めることは困難な状況だったが、その事情が全面的に汲まれることはなかった。さらにJR東海はこの判決を不服として最高裁に上告している。
認知症の家族を抱えた場合、介護する側には多大な負担がかかり、精神的にも肉体的にも疲弊してしまう。高齢化が加速する中、このような実情に配慮されることなく厳しい判決が下されるような社会でいいのだろうか。(編集担当:久保田雄城)