精子減少は出生率にも関わり、少子化の一因でもあると考えられている。しかし、精子減少が確認されていたフランスでは、子育て制度の充実により出産率の回復が実現している。フランスでは精子数が年平均1.9%ずつ減少していることが分かったが、出生率は2006年には2.07人まで回復している。
不妊の原因のひとつとされている精子減少。1992年にはデンマーク大学病院のスカケベック教授が世界的な精子減少が起こっていると指摘した。その原因は明らかにされていないが、何らかの複合的な理由の関わりがあるとされている。日本でも帝京大学医学部の押尾茂氏が96年4月から98年3月までの2年間、20代男性50人と、37~53歳の男性44人の精子数を比較し、その結果を学会に報告している。押尾氏の調査結果によると、1ミリリットル当たりの平均精子数は、中年群の男性に比べ20代男性の方がおよそ半分ほど少なく、約4,600万個しかないことが分かった。
精子減少には、内分泌かく乱物質の関与が指摘されている。動物実験ではすでにダイオキシン、PCB、農薬などに利用されているDDTなどの化学物質が精子異常に影響していることが確認されている。特にDDTに関しては、農薬として使用した毒性が人体に蓄積され、子どもにも受け継がれて悪影響を及ぼすことが認められたため、71年から使用が禁止となった。またカップラーメンなどの容器やスチールの缶からも、環境ホルモンが検出されており、これらを利用する機会の多い現代の若者に、精子減少の傾向があるともされている。さらに電磁波の影響も指摘されており、83年にアメリカでマイクロ波の照射実験が行われた際にはマウスに精子の異常が確認された。一部ではスマホをズボンのポケットに入れることは、精子に悪影響をもたらす可能性があるとも言われている。しかし、いまだ研究結果ははっきりしておらず、環境ホルモンや農薬、電磁波による精子への影響については、不確かなままだ。
精子減少は出生率にも関わり、少子化の一因でもあると考えられている。しかし、世界保健機関(WHO)が示す精子の正常下限値は1ミリリットル当たり1,500万個。押尾氏の調査でも20代の男性精子は4,000万個以上確認されているため、基準値は十分上回っていると思われる。
実際に、精子減少が確認されていたフランスでは、子育て制度の充実により出産率の回復が実現している。89年から2005年においてフランスで精子数が年平均1.9%ずつ減少していることが分かったが、出生率は1995年の過去最低1.65人から、2006年には2.07人まで回復している。フランスにおいても精子減少は殺虫剤や農薬、環境ホルモンに原因を重ね合わせており、化学物質を体内にとりこまないように対策をとることと、出産や子育て制度を整備していくことなど、多角的な視野で少子化を防いでいくことが必要と思われる。(編集担当:久保田雄城)