安倍首相が成長戦略のひとつとして掲げているのが「農業・農村所得倍増計画」だ。政府は現在1兆円の市場規模を10年後には10兆円にまで押し上げることができるとしているが、農山漁村文化協会は「まやかし」として否定的な見解を示している。
安倍首相が成長戦略のひとつとして掲げているのが「農業・農村所得倍増計画」だが、農業関連の雑誌や書籍を出版している農山漁村文化協会(農文協)は「まやかし」として否定的な見解を示している。
安倍首相が推し進める「所得倍増計画」とは、農業の競争力を強化しながら10年間で農業所得を倍増させていくというものだ。農業所得とは、農産物から得られる収益から経費を差し引き、補助金を上乗せして算出されたものを指す。主な計画としては、これまで農作物の生産のみに携わってきた農家を1次産業から脱却させ、生産・加工・販売まですべてを担う6次産業化を目指す。これによって農産品のブランド化や付加価値が高まり、現在1兆円の市場規模を10年後には10兆円にまで押し上げることができるとしている。
しかし農文協は2013年8月号の「主張」で、所得倍増計画について「実現の見込みのない大風呂敷」と批判的な態度を示している。ブランド米やリンゴなど、中国を代表とする海外輸出に期待が高まった時期もあったが、流通面の難しさやコストの問題もあり、思うように前進していないのが現状のようだ。ある農協は、海外では倍の値段でも確かに売れはするがコストを差し引くと収益が出ないとし、今では輸出を取りやめているという。加えてTPP参加による農家への打撃や、大企業の参入で成立する6次産業化では実際の農家への還元はほんのわずかだとしている。
農家の実態とは一体どういうものなのだろうか。14年1月、与信管理事業に携わるリスクモンスター<3768>が成人男女600人に行った調査「離婚したくなる亭主の仕事」では、夫が農業に従事する妻の33.3%が「夫の仕事に不満がある」と回答した。複数回答による不満理由につては「給料が低い」「福利厚生が不十分」「土日休みではない」がそれぞれ100%という驚きの回答率だ。農家が置かれている状況は、かなり厳しいものであることには間違いない。
農家は高齢者の就業率が高く、年金受給者も多い産業である。また農作物は自然災害や天候不順などによって収穫量が左右される上、近年は兼業所得も減少傾向にあり、収入が不安定な職業だ。13年に農林中金総合研究所が発表した「農業所得の動向と倍増の実現性」によると、生産農業所得と農業純生産はともに1990年代から半減している。年金や兼業収入なども合算した稲作農家の所得は441万円で、そのうち農業から得ている収入はわずか48万円だ。農業だけでは食べていけないという現状があるのに対し、政府が机上の空論を打つばかりでは埒が明かないだろう。(編集担当:久保田雄城)