【今週の展望】風に飛ばされたデラシネは故郷に帰れるか?

2014年11月16日 20:15

 テクニカルの無力化と言えば、14日終値時点の25日移動平均線乖離率はプラス10%をオーバーした。プラス5%を超えると「買われすぎ」のサインと言われるから、文字通り「ダブルで買われすぎ」。本来ならいつ暴落してもおかしくない水準だが、解散風にあおられ糸が切れて飛んでいった凧は落ちてこなかった。12日は後場に「ゲリラ急落」したとはいえ高値と終値の落差は1.4%で、それは14日の始値で完全に包み込んでいる。これが兜町で言う、政治がからんだ時の「マル政相場」というものなのだろう。

 無力化されるかもしれなくても、今週もテクニカルポジションを一応チェック。14日の日経平均終値17490.83円から見て、5日移動平均線17197円、25日移動平均線15896円、75日移動平均線15740円、200日移動平均線15137円は、全て下にある。5日線と25日線の間は1301円も離れている。日足一目均衡表の「雲」も15563~15920円で、14日終値から1500円以上も下に離れる。もっとも、ボリンジャーバンドは25日線+1σの16837円と25日線+2σの17778円の間にあり、統計学の標準偏差で「今、そこにある確率」は31.7%である。

 オシレーター系指標は、25日移動平均乖離率は10.03%で10%超え。前回の総選挙前に始まってちょうど2年たったアベノミクス相場で10%を超えた「ダブルの買われすぎ」は過去2回しかなく、大暴落を喫した2013年5月23日も直前に10%を超えていた。ストキャスティクス(9日Fast)は92.37で2日連続90超え。25日騰落レシオは106.46で、10月以来、100を超えたのは10月6日、10月7日と11月10日の3回しかなく、「買われすぎ」がめったに見られない水準にまで達している。

 そんな状況のもと、今週、可能性が大いにあると思われるのは、現状の「ダブルで買われすぎ」の「ダブル」の部分が剥落し、日経平均が「25日移動平均線+5%」あたりの、ただの「買われすぎ」のレベルまで下落。迷子の宇宙船が大気圏内まで戻って「孤高の鳥」に変身する「デラシネ、故郷に帰る」というシナリオである。

 その理由の一つは、14日に17549円というけっこう高い水準のSQ値が算出され、当日の日経平均がそれに一度もタッチできず「まぼろしのSQ」になったこと。まぼろしのSQ値は、下に出現すれば強力なサポートラインになってくれるが、逆に上に出現すれば強力なレジスタンスライン「鉄の天井」になる習性がある。これが上値追いをあきらめるムードにつながり、投資家心理に微妙に影を落とすかもしれない。

 このSQ値17549円をも突破する上値追いというのは、言ってみれば、天使から怪物まで何でもありのゲームの世界のキラーコンテンツ「ファンタジー」の領域に入ること。「パラダイム・シフト」を起こし、想像を超えた別の世界に飛んでいってしまう。だからこそ、まぼろしのSQになったのだろう。

 もう一つの理由は、10月17~24日の週から+759円、+1122円、+466円と上昇してきた日経平均に前週、「調整」の機会が与えられず、さらに610円も上昇したこと。4週間で下落は5日だけで、+2958円も走り続けた馬車馬は、いい加減に休みたがっている。しかし日銀のETF買い入れ、人呼んで「日銀砲」がそれを許さない。

 白川前総裁時代の2010年12月にETFの買い入れが始まった頃は、前引け時点でTOPIXが前日終値より1%を超えて下がったら買い入れを発動する「1%ルール」だったが、「デフレ脱却に向けてやれることは何でもやる」を公約とする黒田現総裁の就任後はその基準が0.5%程度まで下がり、最近はマイナスだったら即発動する日も珍しくなくなった。しかも11月は、スピードが少しでも低下したら10月の2.58倍の強烈なムチが入るようになった。14日などはそれで2時台に形勢を逆転させてプラスで終えていた。しかし、馬車馬の立場で言えば日銀はまさに「鬼の御者」で、いつかぶっ壊れて突然死しかねず、そのハードランディングが怖い。小さな調整が許されなければ、いつかは大調整が来ることになる。

 ただし、その大調整が来ても、ひとしきり下げた後にGPIFや個人の押し目買いが入って終値ベースでは中調整ぐらいで収まるのが今週の傾向ではないだろうか。その収まりどころとして考えられるのが、デラシネが孤高の鳥に変わる「25日移動平均線+5%」の水準である。それは14日時点で16690円だったが、今週は16700円台と見込まれる。

 ということで、今週の日経平均終値の変動レンジは16700~17500円とみる。決算発表シーズンは前週でほぼ終了したが、たとえば「過去最高益を達成するとみられる」という新聞の業績観測記事で買われた後、その決算が実際に発表されると「材料出尽くし」で下落するようなケースは日常茶飯事だった。前週、株価を吊り上げた政界がらみの消費増税先送りや解散・総選挙の話も同様になるかもしれない。兜町には「噂で買って、事実で売る」というポピュラーな格言がある。(編集担当:寺尾淳)