11月13日、安倍政権は、派遣労働者に柔軟な働き方を認めるとして推進していた労働派遣法の改正について、今国会での成立を断念した。労働派遣法の改正が実現するまで時間の猶予ができた今、労働派遣法の改正の是非について、再検討する価値がある。
現行の労働派遣法は、企業が同じ職場で派遣労働者を使用できる期間について、専門的な職種として法律に規定された「専門26業務」を除き、原則1年、最長3年と上限規制を定める。改正法案は全ての業務について、一律に上限を3年とする。
このいわゆる「3年ルール」は、「派遣労働者の能力向上を図り、正社員への転換を促す」ために規定されている。しかし、現行の「3年ルール」についても派遣労働者の正社員への転換には役立っていない。
2004年に現行の「3年ルール」が規定された後、企業が3年経った派遣社員や派遣契約を一斉に打ち切るといういわゆる「派遣切り」が横行した。また、派遣社員に関する派遣契約についてクーリング期間を設けて、「3年ルール」の抜け道をつき、正社員への転換を避ける企業もあった。すなわち、現行の労働派遣法の「3年ルール」は、派遣労働者の正社員への転換どころか、企業に派遣切りの口実を与え、派遣労働者を正社員にせずに3年以上使用するための抜け道まで用意したのだ。その3年ルールを「専門26業務」にまで適用しても、企業にとってのみ都合のよい状況に拍車をかけるだけだ。
さらに、派遣労働者に追い打ちをかけるのが、改正法案では、企業が、3年経過した派遣労働者について、派遣契約を打ち切り、別の派遣労働者に入れ替えることができるようになることだ。この改正法案が成立すれば、企業に3年経過した派遣労働者を正社員に転換するインセンティブは全くなくなり、派遣労働者の正社員への転換を抑制する結果になってしまう。
派遣労働者のうち、勤務地や勤務時間に制限があるため敢えて派遣労働者となることを選択した人も多い。そのような派遣労働者にとっては、むしろ長期的に同じ会社に派遣される方が、業務経験やスキル向上という観点から有利といえる。一方、正社員での就職が難しく派遣労働者となった者にとっても、最長3年しか同じ会社に派遣されないと、職業がいつまでも安定しないことになり、不利益が発生する。
結局、労働派遣法の改正案は、派遣労働者の保護に資するのではなく企業の一時的利益の保護に資する改正案である。しかし、労働派遣法の改正案は、企業の優秀な人材を育てるインセンティブを奪い、長期的には企業成長を妨げることになる。
そのため、企業を甘やかし、派遣労働者に冷たい労働派遣法の改正案の今国会での成立が見送りになった今、労働派遣法の改正の是非につき再検討するべきである。(編集:久保田雄城)