厚生年金基金の解散ラッシュが始まっていた。一方で「401k難民」続出か

2014年11月24日 17:14

Nenkin

この夏、筆者の元に届いた「厚生年金基金解散のお知らせ」というパンフ。

 筆者の元にこの夏、大学卒業後に15年ファッション誌編集部に勤務した出版社で加入していた「厚生年金基金」から封書が届いた。「基金解散についての重要な通知書」だと封筒表に朱筆された中身はパンフレットだった。未だ年金受給資格の無い筆者に届く意味も分からず放っておいた。

 ところが先日、当時の出版社の先輩らと飲む機会があり、この厚生年金基金のことが話題になった。きちんと書類を読み返すと、1967年に設立の基金は今年3月末の理事会で解散を決定し、選択一時金支給停止を決議したとある。予定では平成28年3月に解散認可を取得する予定だと書かれている。

 調べてみると、企業年金のひとつである厚生年金基金の解散ラッシュが始まっていた。2012年2月に発覚した旧AIJ投資顧問による年金消失事件を受け、今年4月に、いわゆる「厚生年金基金制度見直し法」が公布された。財政基準を十分に満たしていない存続する526基金の大半を5年で廃止させる改正厚生年金法がスタートしていたのだ。しかし、基金廃止後の受け皿には「いろいろな問題」もあるようだ。

 厚生年金基金は、高度経済成長期の1966年に制度ができた。従業員は公的年金に上乗せされる企業年金の掛け金に加え、本来は国に納める厚生年金保険料の一部も基金に納める。基金は掛け金と厚生年金保険料を合わせて運用し、企業年金分だけでなく、厚生年金の一部も国に代わって支給するという制度だった。多額の資金を運用できるようになる企業と、基金を天下り先として確保したい厚生官僚の思惑が合致し、ピーク時は1900近い基金が乱立した。

 ところが、バブル経済崩壊後は上乗せ分どころか、国に代わって払う厚生年金分の資金さえ不足する、いわゆる「代行割れ」基金が続出。基金の解散には厚生年金の支給に必要な資金を全額国に返す(代行返上)必要がある。しかし、中小には解散したくとも、資金を調達できない基金が多かった。

 そのため残った厚生年金基金は中小の同業者でつくる財政的に脆弱な基金が大半となった。そして2012年、旧AIJが顧客の基金から預かったカネを消失させる事件が起きた。そこに至って、ようやく厚生労働省が重い腰を上げる。代行返上債務の軽減や30年の分割返済を認めた。財政が健全な一部基金を除いて2018年度末までに全廃させる方針へ転じた。その結果、今年4~7月までに16基金が解散し、248基金が解散を決めた。筆者がかかわる基金は、その248基金のひとつだったわけだ。

 この先、先細る一方の公的年金。厚労省はそれを企業年金の普及と充実で補おうとしている。厚生年金基金廃止後の有力な後釜に想定するのが、2001年に創設した「確定拠出年金」(日本版401k、DC)だ。企業型DCは掛け金を社員が自己責任で運用する。基金や確定給付企業年金のように会社が損失を補てんする必要はなく、企業も採用しやすいと踏んだ。ただ、DCを生かすには加入者が利殖に関心と知識を持っていることが不可欠となる。

 ところが、DCにも多くの問題があるようだ。大学卒業後にDCのある大手企業に勤務したとしても、キャリアアップを目指した転職先に、その制度がない例は多い。その場合、半年以内に「個人型」DCへの移行手続きをしないと、積み立ててきた資産は国民年金基金連合会に移され、塩漬けのまま毎月51円の手数料を取られる。いわゆる「401k難民」と呼ばれる人たちで、全国で44万人近くいるとされ、放置されたままの積立金は800億円超にのぼる。

 筆者の友人が勤務する日本出版販売(日販)は、2004年に厚生年金基金を廃止し、DCを導入したそうだ。日販では、毎年社員向けに年金セミナーを開き、説明を繰り返しているという。とはいえ、企業年金連合会の2013年の報告によると、DC導入企業で継続的に社員への投資教育をしているのは、半数強の55.2%でしかない。DCは自分のお金を運用する制度。DCに対する自覚を高める必要性がありそうだ。(編集担当:吉田恒)