このスタイリングを見よ! いま現在でも未来的なフォルムに映る。1967年4月に東洋工業(現:マツダ)が発売した2座スポーツクーペがこのコスモスポーツだ。世界初のロータリーエンジンを搭載した“量産車”でもあった。世界で初めて市販されたロータリーエンジン搭載車は、正確には旧NSUヴァンケル社(現:アウディ)のヴァンケル・スパイダー(1964年)だ。シングルローターのエンジンを搭載したヴァンケルは、未完成のまま“ごく僅かだけ”市場に出た。だから、“初の量産型ロータリーエンジン搭載車”は、このコスモスポーツなのである。
コスモスポーツのプロトタイプは、1964年の第11回東京モーターショーで展示された。搭載エンジンは400cc×2ローターでスペックは70ps/6000rpmというものだった。翌1965年の第12回東京モーターショーでは最終生産型のコスモスポーツが展示され夢が広がった。
しかも、コスモスポーツが搭載した10A型エンジンは、2ローターの本格的なロータリーエンジンだ。10A型エンジンは5つのハウジングで構成されており、搭載車コスモスポーツが量産規模の小さいスポーツカーであるため、エンジンは2台のローターハウジングまで含んで総アルミニウム合金製であり、そこに炭素鋼を溶射した高価で贅沢な設計だった。排気量は491cc×2ローターが搭載され、9.4の高圧縮比とツインプラグによって110ps/7000rpm、13.3kg.m/3500rpmのアウトプットを得た。
当時、東洋工業はMAZDA110Sの名でコスモスポーツをニュルブルクリンク84時間レースに参戦させる。このレースは、量産車のスピードと耐久性を競う、まさにマラソンレースで、小さなコスモスポーツはポルシェ、ランチア、BMWなどと覇権を競った。結果は完走だが、その完走は参加車59台中、わずか26台。しかも、総合4位の成績を収めた。
コスモスポーツは、前期型(L10A型/価格148万円)が発売初年の1967年に343台販売され、1972年の後期型(L10B型)の最終販売車までの累計で1176台が生産・販売された。
コスモスポーツに搭載された10A型エンジンは、そのコンパクトさを武器に、同社の小さなファミリーカー「ファミリア・クーペ」や「サバンナRX-3」などに搭載された。なかでもRX-3は、1970年代初頭の日本のモータースポーツ界を席捲していた日産スカイラインGT-Rと勝負が出来、なおかつ勝利したこともある唯一のクルマだった。
マツダ・ロータリー・エンジンは、一昨年生産を終えたRX-8が最後の搭載モデル。その後も、新型車の噂はのぼるもコンセプトモデルすら気配はない。(編集担当:吉田恒)