【今週の展望】2万円台は砂上の楼閣か? 鋼鉄の要塞か?

2015年05月24日 20:36

 前週、日経平均は再び2万円を突破し、21日ザラ場には20320円まで上昇した。事前の2万円タッチ予想は決して多数派ではなく、前々週末比で600円近く高い20300円台まであるという予想はほとんど皆無だった。その理由としては、決算発表シーズンがほぼ終わり、通期の為替の円安進行が前期ほどではない予想が大勢を占めるなど、上場企業の業績見通しがおおむね慎重なこともあった。

 それでも前週、予測を超える上昇ぶりをみせた原動力は、18日設定の大型の日本株投資信託、日銀会合直前恒例の不動産など金利敏感株への妙な思惑買い、NYダウの4日続伸や121円台まで進んだ円安もあったが、国内では従来の「スチュワードシップ・コード」に加え、「コーポレートガバナンス・コード」の施行が6月1日に迫っていることも挙げられるだろう。上場企業に株主との対話を求めるこの「2つのコード(原則)」が株主還元策、特に自社株買いの活発化という形でマーケットに間接的に良い影響を及ぼしている。

 象徴的なのがメガバンクで、3行とも前期は増配し、三井住友<8316>とみずほ<8411>は期末配当を従来予想よりも積み増し。最も保守的といわれてきた三菱UFJ<8306>も前々週末15日の大引け後に1000億円規模の自社株買いを発表し、メガバンクは株主還元の大バーゲンになった。それはおそらく、6月の株主総会で「新しく手に入れた武器」コーポレートガバナンス・コードを振りかざす株主たちに、会場で「もっと株主還元を」とワーワー言われたくないのだろう。「物言う株主」には事前にアメをなめさせてうるさい口を封じ、株主総会という名の〃セレモニー〃をつつがなく平穏無事に済ませたいというのは、やっぱり銀行らしい風土だ。

 もう一つ、上昇の原動力としては、エマニュエル・レヴィナスとは状況がまるで違うが「ギリシャという名の『異常の日常化』」も挙げられる。最近、朝の経済ニュースでギリシャの話題が出てくるたびに「またか」とうんざりし、「早く次のニュースを言え」と思った覚えはないだろうか? それは「異常の日常化」の自覚症状。世界の投資家もどうやら前週あたり、「ギリシャはひとまず横に置いておいて」他の好材料を探し、「ギリシャも気になるがこんなにいい材料がある」とそっちに目をつける。そんな「ギリシャ・パッシング」のムードさえ漂っていた感があった。そうやって懸念が薄らげば、「ギリシャ」は売りの要素としては弱くなってくる。

 歴史上、ロングランでくすぶって「異常が日常化」した問題といえば、1801年の併合以来、英国議会で100年以上もめ続けたアイルランド自治権問題が名高く、「大英帝国の宿痾(持病)」と呼ばれた。ギリシャの債務問題は早くもそれに近い存在になりつつある。この「欧州連合とユーロの宿痾」は、「ヘゲモニー(覇権)循環サイクル」の100年はオーバーだとしても、5年や10年程度では根本的にカタがつくとは思えないほど深刻だ。「そんなに長く待っていられるか」というのがマーケットの本音なのだろう。

 「異常の日常化」という意味ではギリシャに少し似ているのが中国の景気減速懸念で、前週21日も2年前の「5.23の地獄の案内人」だったHSBCの中国PMIが49.1で3ヵ月連続で50を下回ったが、発表直後の日経平均は逆に上昇していた。経済指標が悪ければ悪いで、中国の金融当局が再び追加緩和を行う思惑が浮上するからで、それは、アメリカの経済指標が悪ければ早期利上げ観測が後退しNYダウが上昇するのに似ている。「良いは悪い、悪いは良い」と倒錯した謎をかける『マクベス』の3人の魔女は、中国にもいた。

 いずれにしても、そうやって海外の悪材料が「毒消し」されるのは東京市場にはプラスで、5日間全勝の前週の東京市場は「セル・イン・メイ(5月に売れ)」という、いささか食傷気味の言葉などどこ吹く風の上げ潮ムードに支配されていた。5月最終週の今週もおそらく、この風は吹き続けることだろう。ザラ場中に先物主導で売り崩される場面があっても、それは年初来高値圏にいるがゆえの宿命のようなもの。前週のように短時間で下げ止まれば問題はない。終値がマイナスの日が1日、2日あって「小休止」が入ったとしても、最低2万円はキープできる。前週をもって日経平均は、そんな新しいステージにステップアップしたと言えるのではないか。

 なお、29日は5月末の最終取引日だが、4月30日の終値19520円から22日時点で700円以上も上昇し、お化粧しなくても〃美人〃に見えるから、2万円を大きく割り込むような事態にでも陥らなければ「ドレッシング買い」は期待しないほうがいいだろう。

 需給も5月に入って少しずつ改善している。東証が21日に発表した5月11~15日の投資主体別株式売買動向によると、外国人は2週連続買い越し、個人は2週連続売り越し、信託銀行は7週連続売り越しだった。裁定買い残は4月24日のピークの3.5兆円から5月15日には3.2兆円まで減少。同じ日の信用倍率は3.94で、5月1日の4.07からやや下落している。

 6日続伸した22日終値20264.41円のテクニカル・ポジションを確認しておくと、5日移動平均線20116円、25日移動平均線19834円、75日移動平均線19167円、200日移動平均線17429円は、全て下にある。週間騰落で531円も上昇した前週は20日に5日線が25日線を上に抜く「ミニ・ゴールデンクロス(ミニGC)」が出現し、21日には5日線が2万円台に乗った。