【京都のエレクトロニクス5社】エレクトロニクス「京都5社」は、業績見通しが良くても悪くても海外M&Aに積極的

2015年11月10日 08:04

 ■各社の中・長期戦略を反映したM&Aを展開

 「京都5社」の特徴はここ数年、国内外でM&Aの動きが活発化していること。それは、今期下半期から来期にかけての事業環境の見通しが不透明になっても、ゆるがない。

 京セラは7月30日、自動車や産業機器向けのパワー半導体ダイオードに強みがあり、回路のスイッチングを高速で行う「ショットキーバリアダイオード」で世界シェアの7%を占めて第4位の日本インターへの株式公開買い付け(TOB)実施を発表した。買付総額は約106億円で、目的は半導体自体の生産事業に参入する事業多角化である。9月には関連会社の京セラドキュメントソリューションズを通じて、ドイツのサイオニックグループの全株式を取得すると発表した。サイオニックは文書管理ソフトの開発を手がけており、複写機に関わるITサービスの事業基盤を強化する。10月にはトルコの複合機販売会社のビルギダス社を買収すると発表し、海外M&Aが積極化している。

 日本電産には、国内外の積極的なM&Aで2020年度までに売上高を5000億円上積みするという事業方針がある。大型M&Aと小型M&Aを組み合わせて進めていくというやり方をとる。5月にイタリアのモトールテクニカを買収し、7月にインドネシアのガラスレンズ加工会社、ナガタオプトインドネシアを子会社の日本電産サンキョーを通じて買収することで合意。8月にスペインの自動車部品分野に強みを持つプレス機器メーカー、アリサ・プレスを買収。9月にアメリカのモーター制御装置メーカー、KB社の買収、イタリアのEMG社からの商業用モーター事業の取得を発表した。買収金額は両社で約70億円。日本電産からは海外M&Aのニュースがほぼ月1回のペースで出てくる。

 村田製作所には、M&Aやアライアンスの手法を駆使して、既存製品の部品からその周辺の部品に向かって領域を拡大していく独自の事業戦略があり、「にじみ出し戦略」と呼ばれている。2008年から2014年までは年間ほぼ2件のペースで国内外のM&Aを進めてきた。2014年に行われたアメリカのペレグリン・セミコンダクターの買収は、過去最大規模の約490億円。その目的はペレグリンから外部調達していたスマホ向け電子部品、高周波スイッチの内製化で、コストダウンだけでなく技術の幅をひろげる「にじみ出し」も意図していた。前回が大型だったためか2015年は今のところM&Aの動きは静かだが、業績は「京都5社」で最も好調だけに、次のM&Aの準備は着々と進んでいるはずだ。

 ロームは7月22日、パワーベーション(アイルランド)を約87億円で買収し、完全子会社化した。パワーべーションはデジタル電源制御ICの技術で成長したベンチャーで、M&Aにより電源制御のアナログ方式、デジタル方式両方の技術を揃えることができる。アナログ方式よりも高効率、高精度で省エネ型のデジタル方式はデータセンターや基地局でニーズがあり、ロームは電源の分野で世界シェアのさらなる拡大を狙える。

 オムロンは2015年3月期からの3年間に、M&Aに600億円の投資枠を設けている。その目的は、従来の自社開発にM&Aを加えることで主力の制御機器(IA)事業の技術力をより向上させ売上高を伸ばす「最強化」で、それは長期経営ビジョンの基本戦略でもある。7月、モーションコントローラーでは世界最高水準の技術を持つアメリカの制御機器メーカー、デルタ・タウ・データ・システムズ(DT)の株式を100%取得してグループ会社化する契約を締結したと発表した。買収金額は約100億円。続いて9月16日、検査用ロボットに強いアメリカの産業用ロボットメーカー、アデプトテクノロジーをTOBで買収して完全子会社化すると発表した。買収額は約240億円。検査機器の分野を拡大させるこの戦略的なM&Aはマーケットでも評価され、発表直後にオムロンの株価は大きく上昇した。

 京都のエレクトロニクス5社はそれぞれ分野は異なるが、京セラは「半導体生産への進出」、日本電産は「大型M&Aと小型M&Aの併用」、村田製作所は「周辺部品へのにじみ出し戦略」、ロームは「電源でのデジタル技術の取り込み」、オムロンは「制御機器事業の最強化」など、M&Aに関して明確な目的、戦略で臨んでいる。短期的な業績の浮沈に影響されず、中・長期的なM&Aの戦略や投資枠を設定して将来の布石を着実に打てるのは、企業の足腰の強さの証しだろう。(編集担当:寺尾淳)