【電子部品業界の4~12月期決算】好業績の原動力スマホに急ブレーキ。しかしアップル依存度や主力製品の違いで差が出る

2016年02月13日 21:31

 2月4日、電子部品大手7社の4~12月期(第3四半期)決算が出揃った。第2四半期(中間期)の4~9月期は全社が増収で、6社が2ケタ最終増益、アルプス電気は3ケタ最終増益と非常に好調だったのが急転、10~12月期は最終減益が相次ぎ、4~12月期累計の業績にも急ブレーキがかかった。

 日本電産、アルプス電気、日東電工、村田製作所、TDKは最終増益幅が縮小し、京セラ、ロームは増収増益から減収減益に変わった。京セラ、アルプス電気、日東電工は通期業績見通しを下方修正している(京セラの最終利益は上方修正)。

 苦戦の理由はひとえにスマホの成長鈍化による。各社で濃淡はあっても主要取引先であるアップルは9月に投入したiPhone6sの売れ行きが思わしくなく生産調整に動き、スマホ部品の需要が減退した。かといって、増産を続けてきたスマホ向け部品に代わる収益の柱は簡単には見つからない。スマホ以外の自動車向け部品などでも業績を軌道に乗せていた日本電産や村田製作所やTDKなどは減益を免れ、アップル依存度が高いアルプス電気や日東電工は影響をもろに受けて通期業績下方修正、という図式になった。

 電子部品大手の受注額は、大手6社合計の10~12月期の受注額はほぼ前年同期並みで、2ケタ増がほぼ3年続いた好調さは消えてしまった。この傾向は1~3月期も変わらないとみられ、通期業績に影を落としそうだ。

 ■過去最高の一方、減収減益も

 4~12月期の実績は、日本電産<6594>は売上高18.8%増、営業利益16.4%増、最終純利益22.2%増の2ケタ増収増益。4~9月期と比べて増加ペースは少し鈍ったが、連結売上高、営業利益、最終純利益で4~12月期の過去最高を更新した。スマホ向けの振動部品など精密小型モーター、車載部品が好調。為替の円安効果は前年同期比で、売上高で約734億円、営業利益で約113億円出ていた。10~12月期の純利益は前年同期比9%増だが7~9月期から減速。

 中国ではアップルの新型iPhoneの減産でスマホ向け部品が計画未達で、エアコン部品など家電向けも悪かったという。12月末に手元資金から有利子負債を差し引いた「ネットキャッシュ」が100億円の資金超過になり、実質的な無借金経営になった。発行済株式の1.01%に相当する300万株、240億円上限の自社株買いを発表している。

 京セラ<6971>は売上高0.8%減、営業利益26.8%減、四半期純利益15.1%減、最終四半期利益19.6%減で、4~9月期の増収増益から一転、減収減益に変わった。セラミックパッケージなどスマホ向け半導体部品事業は価格下落の影響で減益になり、複合機の販売もふるわなかった。電子デバイスはディスプレイ事業の営業権の減損約180億円、特許訴訟関連費用約50億円の計230億円の費用を計上して減益。太陽光発電の買取価格引き下げなどで逆風が吹くソーラーも、モバイル端末の販売も低迷したままで、半導体、半導体デバイス、太陽光発電装置販売の子会社を統合・整理する事業再編を発表した。

 ローム<6963>は売上高0.3%減、営業利益5.3%減、経常利益20.7%減、四半期純利益17.9%減で、4~9月期の増収、2ケタ増益から一変して減収、2ケタ最終減益に。半導体需要が低迷し、特にタブレット端末用電源用ICがふるわずLSIの部門利益が減少。自動車用、家電用が依然好調な半導体素子の利益でもカバーしきれなかった。減価償却費など固定費負担の増加、為替差益の減少も減益要因となった。

 アルプス電気<6770>は売上高6.1%増、営業利益10.0%増、経常利益1.1%減、四半期純利益30.6%増。営業利益と最終利益は2ケタ増益だが、10~12月期が最終減益になるなど4~9月期に比べて業績にブレーキがかかり、経常利益は減益に転じた。

 スマホ用カメラの手ぶれ補正デバイスが昨年9月発売のアップルの「iPhone6s」に採用されるなどアップル関連銘柄の筆頭格ゆえ、前年同期比微増にとどまったiPhoneの販売台数、減産、アップルの業績のかげりの影響をもろに受けた。電子部品売上高の内訳は電装品用のセンサーやスイッチなど自動車向けがスマホ向けをすでに上回っているが、自動車向けは採算性の改善が課題で、利益面でスマホ向けの不振をカバーできなかった。

 日東電工<6988>は売上収益0.0%(微減)、営業利益8.8%増、税引前利益9.2%増、四半期利益24.2%増、最終四半期純利益23.8%増。2ケタ最終増益ではあるが、前年同期や4~9月期と比べると売上収益は増収から微減に変わり、利益項目は全て増益幅が圧縮している。

 薄型化が進むスマホのスペックに対応し、従来タイプより薄い新型フィルムを開発。それがアップルの「iPhone6s」のタッチパネルに採用された。その液晶パネルに使われる偏光板とともに期待されていたが、そのためiPhone の減産、アップルの業績減速の悪影響が大きく出てしまった。10~12月期のオプトロニクス事業の売上高は前年同期比で約3%の減収で、営業利益の約8割を稼ぎ出す利益源なので業績へのインパクトは大きい。一方、工業用テープの分野は自動車のエレクトロニクス化が進んでワイヤーハーネス用保護テープなどが伸び、堅調だった。

 村田製作所<6981>は売上高22.1%増、営業利益46.1%増、税引前四半期純利益32.2%増、最終四半期純利益34.2%増。スマホ市場の減速の影響、前年同期に為替差益が膨らんだ反動で10~12月期の純利益が約3%の減益になり、4~9月期と比べて増収幅、増益幅が圧縮されたが、それでも2ケタの増収増益。「スマホと自動車」のツインエンジンは、スマホがややスローダウンしてもそのパワーを維持している。スマホ向けはコンデンサーなどは頭打ちでも、1台あたりの部品搭載数の増加という要素があり、通信関連の「表面波フィルタ」などは中国でLTEなどモバイル通信の高速化が進んで依然好調が続き、注文に生産が追いつかないという。

 TDK<6762>は売上高10.8%増、営業利益42.9%増、税引前四半期純利益49.1%増、最終四半期純利益63.3%増の2ケタ増収、大幅増益。10~12月期も最終増益で、電子部品7社の中で最も元気さを保っている。スマホ向け部品の売上は鈍化しても、リチウムイオン電池など2次電池、自動車向けのセンサー、コンデンサーなどは伸びている。スマホ向けもアップル依存度が低く、中国の販売が好調なメーカー向けが伸びていた。村田製作所と同様に高周波部品が好調で、1台当たり部品搭載数増加の恩恵も受けている。

 ■アップル依存度が通期見通しの明暗を分ける

 2016年3月期の通期業績見通しは、日本電産は売上高11.8%増、営業利益17.2%増、最終当期純利益18.4%増の3期連続の最高益で修正なし。前期と同じ期末配当40円も、前期比10円増の予想年間配当80円も修正はなく、4~12月期最終利益の通期見通しに対する進捗率は78.8%だった。

 1月7日、2017年3月期の設備投資額を今期の900億円の約3割増で過去最高の1200億円とすると発表した。自動運転関連のセンサーなどの車載部品、ロボット向け減速機など強みを持っている成長分野を強化する。中国・浙江省のプレス機製造拠点に約50億円を投資し、生産品目を小型品中心から自動車向け部材を製造できる大型品にも拡大。インドの産業向けモーター生産にも投資する。スマホ用振動部品の増産に今後数年間で1000億円超を投資するほか、スマホ搭載カメラの手ぶれ補正部品に新規参入する。

 京都府精華町のけいはんな学研都市内に生産技術研究所を開設することも発表した。永守重信会長兼社長CEOは法人減税のメリットを挙げて「2016年は国内への生産回帰を進めたい」と話している。国内外のM&Aで2020年度までに売上高を5000億円上積みするM&A戦略については「センサーやソフトウエアが中心」「株安、円高はチャンス」(永守社長)と、引き続き積極姿勢をとっていく方針。自動車向け部品で中・長期で目指すモデルはドイツのボッシュだという。

 京セラは通期業績見通しの売上高を500億円減らして0.2%増から3.0%減に、営業利益を250億円減らして17.7%増から9.0%減に、税引前当期純利益を50億円減らして14.9%増から10.0%増に、それぞれ下方修正。昨年10月の修正から3ヵ月経過して再度の下方修正となった。当期純利益は50億円上積みし26.6%減から22.3%減に上方修正した。期末配当予想には修正なく前年同期比で10円減の50円、予想年間配当は前期と同じ100円。4~12月期最終利益の通期見通しに対する進捗率は66.1%だった。

 ロームは昨年11月に通期業績見通しの売上高、営業利益を下方修正、当期純利益を上方修正したが、今回は修正なし。売上高は0.1%増、営業利益は12.4%減、経常利益は32.5%減、当期純利益は31.6%減。前期比20円減の予想期末配当65円、前期と同じ予想年間配当130円も修正はなかった。4~12月期の通期見通しに対する進捗率は、売上高は75.5%、営業利益は89.3%だが、経常利益は101.6%、最終利益は101.4%で、既に通期予想を超えている。最終四半期の1~3月期の為替レート、半導体市況が不透明だとして業績の修正はしなかったが、スマホへの依存度は低く、自動車関係が堅調なことから上振れが予想される。2月にはルネサス滋賀工場の取得も完了し、春にはタイの新工場が本格稼働。生産能力を高めたパワーデバイス、アナログICを中心に、自動車、産業機器への注力を加速することで、成長軌道に乗せる方針だ。

 アルプス電気は昨年10月に通期業績見通しを上方修正したが、今回は逆に下方修正した。売上高を30億円減らして3.9%増から3.5%増に、営業利益を80億円減らして13.0%増から1.9%減に、経常利益を80億円減らして3.3%増から10.6%減に、当期純利益を95億円減らして42.5%増から15.1%増に、それぞれ下方修正した。いったん減益から増益に変わった経常利益は再び減益に戻り、最終利益は今期、上方、上方、下方と3回修正された。4~12月期の最終利益の下方修正後の通期見通しに対する進捗率は93.0%。下方修正してもなお過去最高益更新なので、予想期末配当を5円上方修正して前期比5円増の15円、予想年間配当を前期から10円増の25円とした。アップルが秋に投入する予定のiPhone次期モデルに対応するために生産能力の増強は続けていく方針。

 日東電工の通期業績見通しは、売上収益は600億円減らして5.4%増から1.8%減に、営業利益は100億円減らして12.4%増から3.1%増に、税引前利益は100億円減らして13.3%増から3.8%増に、当期利益は27億円減らして13.7%増から10.2%増に、最終当期純利益は27億円減らして13.9%増から10.4%増に、それぞれ下方修正された。減収になったが2ケタ最終増益は維持し、営業利益は過去最高を更新する見込み。予想期末配当は前期実績から5円増の70円、予想年間配当は前期から20円増の140円で修正なし。4~12月期最終利益の通期見通しに対する進捗率は81.9%となった。

 下方修正の最大の要因は最大顧客のアップルの減産で、1~3月期は主力のスマホ向け部品の売上が当初見込みよりも弱含むと予測している。一方、工業用テープ生産のコストダウンが効いて過去最高益になる見通し。アメリカ・カリフォルニア州に「核酸医薬品」の研究や臨床試験を担う新会社を設立し、受託製造を推進する。

 村田製作所は昨年10月に通期業績見通しを上方修正済みで、今回は売上高15.0%増、営業利益26.8%増、税引前当期純利益15.8%増、最終当期純利益20.4%増の2ケタ増収増益で修正なし。予想期末配当は前期と同じ100円、予想年間配当は前期比20円増の200円で修正なし。4~12月期最終利益の通期見通しに対する進捗率は87.1%。第3四半期の決算発表に合わせて、資本提携先で、現状で発行済株式の63%を保有するコイル(電子部品)の最大手、東光を株式交換で5月に完全子会社化すると発表した。スマホ部品の開発力、国際競争力を強化する。

 TDKは売上高9.0%増、営業利益31.1%増、税引前当期純利益27.5%増、最終当期純利益31.5%増の通期業績見通しも、前期比10円増の60円の予想期末配当、前期比30円増の120円の予想年間配当も修正なし。4~12月期最終利益の通期見通しに対する進捗率は86.7%となっている。

 昨年12月にスイスの磁気センサーメーカー、ミクロナスセミコンダクタホールディングスをTOBで買収すると発表した。M&Aで自動車や産業機械向けの磁気センサーの分野を強化する。1月13日にはモバイル機器向け部品事業の一部をアメリカの半導体大手クアルコムに譲渡すると発表した。無線通信用の高周波モジュールを手掛けるドイツ子会社エプコスの事業の一部を切り出し、シンガポールにクアルコムとの合弁会社を設立する。売却額は推定約3600億円。TDKは売却資金を得る上にクアルコムとの技術協力によって、成長分野の自動車向け、産業機械向けの分野を強化し、現在は連結売上高の約4割を占めているスマホ向けのシェアを下げる。(編集担当:寺尾淳)