超高齢化社会を元気にイノベーションする、産官学の取り組み

2016年04月29日 15:46

産学官連携

「糸島市健康福祉センターふれあい」内に設置された同施設は、昨年12月に3者間で締結した「健康」「医療」「介護」事業における連携協定に基づくもの

 超高齢化社会に突入し、日本の社会が少しずつ変貌しはじめている。しかし、老老介護や少子化など深刻な問題が多いものの、国民の意識はそう悲観的になり過ぎてはいないようだ。むしろ、定年後の第2の人生をいかに元気に楽しく過ごそうかと前向きに考えている人は多い。アンチエイジングや健康寿命などという言葉が流行するのも、その表れではないだろうか。実際、平均寿命が男女ともに今よりも5歳若かった1990年代の60代と現代の60代では「お年寄り」の感覚が違う。見た目や印象だけでなく、健康面でもはるかに若く元気だ。記録に残る最も古いデータは1891年-1898年のものだが、その頃の平均寿命は男性が42.80歳、女性は44.30歳。今の平均寿命の約半分。現代なら、まだまだ働き盛りといわれる歳。70代や80代の方から見れば「若者」だ。

 しかし、人間自体がそれほど頑強になったわけではないだろう。現在の平均寿命の伸長は、農林水産業技術の発達による豊富な食料、住宅や交通をはじめとする生活環境の改善、そして何よりも、日々発展し続ける医療技術の賜物だ。とくに最近では、医療現場だけでなく、自治体や大学とともに地域ぐるみで「健康」「医療」「介護」を考える産官学の取り組みが盛んに行われるようになってきた。

 文部科学省も傘下の科学技術振興機構(JST)と共同で「センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム」の研究開発プロジェクトを推し進めている。その全12件のCOI拠点では、例えば、弘前大学とマルマンコンピュータサービスによる「脳科学研究とビッグデータ解析の融合による画期的な疾患予兆発見の仕組み構築と予防法の開発」や、大阪大学とパナソニック<6752>が主導する「幼少期から老年期に至るまで、常に意欲的で潜在力を発揮できるスーパー日本人の育成、豊かな社会の構築」、東北大学と東芝<6502>、日本光電工業<6849>による「さりげないセンシングと日常人間ドックで実現する理想自己と家族の絆が導くモチベーション向上社会創生拠点」など、これからの超高齢化社会に必要な最先端の研究が進められている。

 また、COIプログラム以外にも、産官学の連携は活性化している。近々では、福岡県の糸島市と九州大学、そして自動車用の防振ゴム・ホースで世界トップシェアを誇る住友理工<5191>が連携で、「九州大学ヘルスケアシステムLABO糸島」をオープンし、地元のみならず、ヘルスケア業界からの注目を集めている。

 「糸島市健康福祉センターふれあい」内に設置された同施設は、昨年12月に3者間で締結した「健康」「医療」「介護」事業における連携協定に基づくものだ。地域福祉の向上を目的に、住友理工の開発者が常駐し、九州大学との共同開発品をはじめとするさまざまな製品やシステムを評価・検証しながら、市民や専門家との議論の場として活用される。

 九州大学の久保総長は調印時に「この協定により、健康・医療・介護分野における地域福祉の向上、教育研究活動の推進、産業の創出を図りたい」と強調しているが、単に医療や介護だけでなく、地域活性まで見据えた効果が期待されている。この取り組みが成功すれば、今後、全国でも同じような取り組みが進むのではないだろうか。

 平均寿命が延びたということは、それだけ、昔の人よりも長く人生を楽しめるということでもある。超高齢化社会の日本人が元気に明るく過ごすためにも、こういった取り組みや研究が益々盛んに行われ、成果を挙げることを期待したい。(編集担当:藤原伊織)