熊本地震がマクロ経済に与える影響とは?

2016年06月30日 07:51

 平成28年熊本地震は、被災地に所在する企業のほか、被災地内に設備や工場を有する県外企業にも影響を与えている。被災地企業の取引先は全国で約3万 1000社に上るうえ、県外企業が所有する被災地域の営業所・工場等の拠点は 2065件あり、本社所在地は北海道から沖縄まで全国に広がる。そのようななかで、被災地の復旧・復興および日本経済の震災からの立ち直りに対する見通しも重要となる。

 そこで、帝国データバンクでは、熊本地震がマクロ経済に与える影響について、過去の震災と比較・考察し、TDB マクロ経済予測モデルを用いて熊本地震がマクロ経済に与える影響を試算した。

 地震による被害が大きかった2県(熊本県、大分県)の名目県内総生産(GRP)は日本全体の1.9%(2013年度)を占めた。なお、過去の震災をみると、1995年の阪神・淡路大震災で被害の最も大きかった兵庫県は4.0%、2011年の東日本大震災における被災3県(岩手県、宮城県、福島県)は3.6%(2011年度)、自動車工場の被災でサプライチェーンが大きく毀損した2007年の新潟県中越沖地震は1.7%(2007年度)となっている。

 新潟県中越沖地震の被災地となった新潟県は、県内総生産のうち製造業が 20.2%と、非常に大きなウェイトを占めていた。特に金属製品製造業は全国の 3.0%を占めていたほか、パルプ・紙製造業も同 2.9%と盛んであり、川上産業が特徴的であった。

 一方、熊本地震の被害が大きかった 2県では、サービス業(20.5%)と製造業(18.8%)が高い。対全国では農林水産業や電気機械のほか、鉱業や窯業・土石製品も比較的高い割合を示していることが特徴である。短期では、九州自動車道の一部区間が不通となったことで生産された農産物の流通への打撃が懸念される。中長期的にみると、電気製品に組み込まれる電子部品などの全国への供給力低下は、企業がサプライチェーンを再構築するきっかけとなる可能性もあるとしている。

 新潟県中越沖地震を上回る影響も過去の震災が日本経済全体に与えた影響をみると、実質国内総生産(GDP。前期比伸び率の年率換算)は、東日本大震災を除いて、発災の翌期にはプラス成長に転じており、とりわけ個人消費の回復がけん引してきた。

 しかしながら、今回の熊本地震では、過去8期中4期でマイナス成長を記録するなど、全国の景気が停滞するなかで発生したことはこれまでと大きく異なる点である。阪神・淡路大震災の起こった1995年当時は、バブル経済の崩壊後とはいえ、個人消費を中心とした成長を続けており、企業も多くのキャッシュを保有していた。また、新潟県中越沖地震では、戦後最長の景気拡大局面にあるなかで発生した。現在は人件費や資材費など企業のコスト負担が徐々に高まり、個人消費や住宅投資が弱含みで推移するなかでの震災であり、日本経済に与える影響は無視できないとしている。(編集担当:慶尾六郎)