【食品スーパー業界の2016年3~8月期決算】事業再編も自然災害も乗り越える元気な業態

2016年10月19日 20:13

 ■下半期の消費動向を慎重に見積もり、連結通期見通しの上方修正なし

 食品スーパー業界の2017年2月期の業績見通しは、3~8月期の四半期純利益の進捗率がかなり高い企業もあるが、熊本地震で大きな被害を受けた店舗があるイズミが8月に下方修正した以外は、決算発表時点で上方修正も下方修正もなかった(マックスバリュ九州の上方修正は単体決算のみ)。業績は堅調でも、下半期の消費市場の行方への不安感は各社ともぬぐえない模様。

 首都圏のユナイテッドスーパーHDは営業収益4.9%増、営業利益2.0%増、当期純利益8.8%増を見込み修正なし。年間配当見通しは前期と同じ14円で修正なし。「ICT(インフォメーション&コミュニケーション・テクノロジー)ビジネスデザイン室」「商品デザインタスクチーム」を新設して推進中の中期経営方針の核心、3社統合のグループシナジーの効果は、着々とあがっている。

 ベルクは営業収益3.3%増、営業利益2.4%増、当期純利益10.2%増の増収増益、2ケタ最終増益見込みで修正なし。年間配当見通しは前期比5円増配の56円で修正なし。東武ストアは売上高2.8%増、営業利益9.6%減、当期純利益28.4%減と増収減益を見込む。9月1日付で10株を1株にする株式併合を実施したので、予想期末配当は25円でも実質的には前期の2.5円と変わらず。下半期の既存店売上高は1.6%増の計画。

 ライフコーポレーションは今期から連結決算に移行し、通期の営業収益は6600億円、営業利益は127億円、当期純利益は75億円で修正なし。年間配当見通しも前期と同じ30円で修正なし。岩崎高治社長は「上半期は想定通り」としながら、下半期は「節約志向が強まっているのが懸念材料」と、消費の先行きに慎重な見方のコメントを出している。

 オークワは営業収益1.8%増、営業利益35.3%増、当期純利益67.5%増の増収、大幅増益の通期見通しで修正なし。年間配当見通しも前期と同じ26円で修正なし。中部エリアへの積極出店や改装、電子マネーやセミセルフレジの導入などの投資が先行して収益を圧迫しているが、トンネルの出口は見えてきた。それでも神吉康成社長は「ドラッグストアなどとの競争が激しい」と、下半期について楽観視していない。

 大都市圏に比べて個人消費のテイクオフが遅れていた地方の食品スーパーだが、熊本地震など自然災害を乗り越えて業績の立て直しが着々と進んでいる。

 マックスバリュ北海道は既存店の改装効果、コストの圧縮で通期、営業収益13.9%増、営業利益12.8%増の2ケタ増収増益を見込む。当期純利益は23.5%減。年間配当見通しは前期比で2円増配の17円で修正なし。最終減益は、前期に計上した事業承継に伴う繰延税金資産が今期は計上されない見通しのため。

 天満屋ストアは営業収益1.0%増、営業利益2.9%増、当期純利益は89.3%増で大幅最終増益を見込む通期見通しに修正なし。年間配当見通しは前期と同じ5円で修正なし。8月に天満屋グループ3社が創業家から発行済株式数の8.5%を取得し、経営の安定化を図っている。

 イズミは8月に通期業績見通しの下方修正を行い、営業収益は156億円減で8.6%増から6.3%増に変わり、営業利益は修正なく8.7%増、当期純利益は76億円減で12.4%増から28.1%減に変わった。熊本地震のために通期で123億円の損失を計上し、2ケタ最終増益から2ケタ最終減益へ。年間配当見通しは前期比2円増配の66円で修正なし。

 マックスバリュ西日本は営業収益1.4%増、営業利益2.2%増、当期純利益3.9%増の増収増益見通しで修正なし。年間配当見通しは前期と同じ35円で修正なし。

 マックスバリュ九州は9月1日に唯一の連結子会社クリエイトを本体に吸収合併したため、連結対象がなくなって2017年2月期は単独決算(個別決算)に変更される。その売上高は1660億円、営業利益は21.5億円、当期純利益は6億円。吸収合併に伴ってその個別業績を上方修正している。年間配当見通しは前期と同じ30円で修正なし。

 食品スーパーの元気がいい理由は、その立地がコンビニのように消費者に身近なことだけではない。各チェーンは店舗ごとに商圏の事情に合わせた個客対応、きめ細かいマーチャンダイジングやコスト管理など、懸命な企業努力をしている。たとえば一人暮らし世帯が多い地域では生鮮食料品を小分けするなどサイズの小さい個食対応の商品企画で、高齢化が進んでいる地域では減塩食品、有機野菜など健康志向に合わせた商品構成や売場づくりで、それぞれ固定客を獲得している。良い意味で小回りがきく、融通がきくことが、好業績につながっている。

 セブン&アイHDは、2020年までに40店舗を閉鎖するGMS、イトーヨーカ堂の店舗の解体後の再開発の青写真に、マンション群や診療所、介護施設、保育施設などとともに、食品スーパーを核とする小型のショッピングモールを描き込んでいる。高度成長時代のような「大きいことは、いいことだ」は、流通業界ではすでに終わっている。食品スーパーという業態には、明るい未来がある。(編集担当:寺尾淳)