2016年10月1日から20日にかけて最低賃金が改定される。2016年度の最低賃金の改定は、政府の「ニッポン一億総活躍プラン」や「経済財政運営と改革の基本方針 2016」(骨太の方針)、「日本再興戦略 2016」などを踏まえ、最低賃金が時給で決まるようになった2002年度以降で最高額の引き上げとなり、すべての都道府県で700円を上回ることとなった。そのため、収入増加による消費活性化などが期待される一方で、人件費上昇による企業収益の悪化などが懸念されている。そこで、帝国データバンクは、最低賃金の引き上げに関する企業の見解について調査を実施した。
最低賃金の改定を受けて、自社の給与体系について見直しの有無を尋ねたところ、「見直していない(検討していない)」企業が49.1%となった。他方、「見直した(検討している)」企業は35.0%で3社に1社が見直しを実施または検討していた。約半数の企業は給与体系に変更を加えていないものの、最低賃金の改定への対応として給与体系を見直した企業も多くみられており、最低賃金が比較可能な2002年以降で最大の上げ幅となった影響が如実に表れる結果となった。
給与体系を「見直した(検討している)」とした企業を業界別に見ると、『小売』が48.9%となり半数近くにのぼった。非正社員の雇用割合が高く、最低賃金の引き上げが直接的に給与体系の見直しにつながっている様子がうかがえるとしている。以下、『運輸・倉庫』(43.4%)、『製造』(41.0%)が4割を超えた一方、『金融』は 1 割台にとどまるなど、業界間で大きく対応が異なった。
給与体系を見直した理由について、企業からは「人材確保のほか、働きやすい職場環境づくりや中途離脱者防止のため」(農業協同組合、北海道)や「非正規社員不足による人材補充への応募対応、および政府の最低賃金引上げへの対処」(貸事務所、福岡県)、「より働きやすく、成果を上げた、または頑張っている社員への評価制度を見直し、人事給与制度を抜本的に見直した」(投資業、広島県)といった声があがっており、最低賃金での採用の有無にかかわらず、人事評価も含めた給与体系の見直しを行うなど、人手不足が強まるなか最低賃金改定は人材確保に影響を与えている様子がうかがえるとしている。
また、従業員を実際に採用するときの最も低い時給を尋ねたところ、全体平均は約958円となり、改定後の最低賃金の全体平均823円を135円上回る金額となった。都道府県別で比較すると、改定された最低賃金と採用時の平均時給の差額が最大だったのは『東京都』で、差額は+165 円(採用時最低時給約1,097円)となった。
以下、『島根県』(+162 円、同880円)や『沖縄県』(+161円、同 875 円)、『鹿児島県』(+159 円、同874円)、『福岡県』(+156円、同921円)が続き、西日本を中心に最低賃金と採用時の最低時給の差額が大きくなっている。また、両者間の乖離率をみると 7 県が 2 割以上となったものの、東日本では原発事故からの復旧が続く『福島県』が乖離率 21.5%と高水準となった。制度として定められている最低賃金と、採用時の最も低い時給の実態との間で乖離がみられ、とりわけ地域間の格差が顕著に表れる結果となったという。(編集担当:慶尾六郎)