理研がコイル直径30nmの人工バネを作製 タンパク質の動きを可視化

2016年12月18日 19:25

 細胞は、培養環境、生体内環境のさまざまな“物理的な力”を感知して、その力を細胞増殖、分化、形態形成や細胞死などに利用しているという。そのメカニズムで重要な役割を果たすのが、「メカノセンサータンパク質」だ。一方で力がどのようにしてメカノセンサータンパク質の機能を制御するのかを調べる技術は乏しく、不明な点が多くある。従来の技術では、タンパク質の機能や動態を1分子レベルで可視化すると同時にタンパク質に力を加えることは困難だった。そのため、メカノセンサータンパク質を“効率よく、観ながら触る”新たな技術の開発が求められていた。
 
 そこで、理化学研究所(理研)を中心とした国際共同研究グループは、DNAを編む「DNAオリガミ」と呼ばれる技術を用いて、タンパク質サイズの世界最小のコイル状人工バネ「ナノスプリング」を作製した。コイル直径は30ナノメートル、長さは100~1,000nm。DNA分子で構成されているため、化学修飾が容易であり、さまざま分子と接続できるという。

 ナノスプリングと、メカノセンサータンパク質でありかつ自律的に力を発生するモータータンパク質でもあるミオシンVIを結合させ、ナノスプリングを引き延ばす過程を蛍光1分子イメージングで超解像ナノ計測し、ミオシンVIが力に応答して機能を調節する機構を可視化した。その結果、ミオシンVIは力を受けると、細胞骨格であるアクチンフィラメントへの結合様式を変化させて、強固な結合状態(アンカー結合状態)を作ることがわかった。ミオシンVIは内耳の蝸牛内に存在するステレオシリアの形態維持を担っている。

 ステレオシリアは、音(空気の振動)に揺さぶられることで脳内に信号を伝える役割を果たしている。ステレオシリアが受けた振動による物理的な力刺激がミオシンVIに伝わり、アクチンフィラメントとアンカー結合状態を生じることで、その形態を安定に維持していると考えられるという。

 この研究で開発したナノスプリングはバネ定数のチューニングが可能でプログラム能力も高いため、さまざまなメカノセンサータンパク質へ応用できる。電子顕微鏡や原子間力顕微鏡との併用も可能なため、今後、力を加えながら分子構造や動態を観る手法として有効なツールになると期待できるとしている。(編集担当:慶尾六郎)