為替レート過敏症になったような今週の株式市場

2013年02月17日 08:54

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 来週の日経平均は、G20次第で10000円割れも12000円接近も

 12日朝方はドル円94円台前半、ユーロ円126円台前半まで円安が進んでいた。8日の麻生発言で円高、11日のアメリカのブレイナード財務次官のアベノミクス支持発言で円安に振れた末のこと。8日のNYダウは48ドル高、11日は21ドル安だった。三連休明けの日経平均は193.56円高の11346.72円で始まり、すぐ11400円台に乗せた。甘利経済再生大臣が9日に「3月末の株価1万3000円が目標」と発言したインパクトは大きく、先高期待で全面高。正午すぎに北朝鮮の核実験の第一報が流れたが、後場開始後の東京市場は為替も株価もほとんど反応せず。その後は為替が少し円高に振れて11300円台まで下がる場面も出て、日経平均終値は215.96円高の11369.12円で引けた。

 東証1部の業種別騰落率は、上から証券、銀行業、ゴム製品、医薬品、陸運業、情報・通信業の順。値下がりした業種は5業種だけで、悪い方から鉱業、石油・石炭、繊維、輸送用機器、食料品だった。業種別騰落率1位の証券株は野村HD<8604>も29円高だったが、光世証券<8617>が値上がり率2位、岩井コスモHD<8707>が同8位に入るなど中堅証券の健闘が目立った。2位の銀行株も金融緩和期待とこの日の大型株物色の流れを受けて三大メガバンクが好調で後場は一段高になり、揃って昨年来高値を更新した。売買高1位のみずほ<8411>は2ケタの10円高。三菱UFJ<8306>は12円高、三井住友FG<8316>は130円高だった。前週末に大きく下げた銘柄のうちソニー<6758>は16円高、ニコン<7731>は11円高で反発したが、DeNA<2432>は108円安で続落し、同業のグリー<3632>は30円安でコナミ<9766>も31円安と下落した。決算が悪くなかったのに下落したのは太平洋セメント<5233>で、売買高6位に入りながら19円安。いすゞ<7202>、横河電機<6841>も同様だった。パナソニック<6752>、サッポロHD<2501>、JT<2914>は下落幅が大きくなった。

 北朝鮮の核実験で「地政学的リスク」が高まって後場注目の防衛関連銘柄は、前週に大きく動いた石川製作所<6208>は6円高、興研 <7963>と重松製作所<7980>はストップ高、豊和工業<6203>は1円安。東京計器<7721>は7円安と高安まちまちだった。

 13日朝方、ドル円は93円台前半、ユーロ円は125円半ば。「為替レートを目標にしないと再確認する」というG7緊急声明でいったん円安に振れたが、「声明は誤解されている」発言、カナダ中央銀行のカーニー総裁の「日本円についてG20で協議する可能性がある」という発言で一転、円高が進行した。12日のNYダウは47ドル高で14000ドル台に乗せている。日経平均始値は35.40円安の11333.72円と小幅安。前場はずっと小幅マイナス圏の小動きで推移したが、後場はドル円92円台、ユーロ円124円台に円安が進行して、先物主導で11200円台に下落。一時は11200円も割り込んだが、終値は117.71円安の11251.41円で引けた。小型株が悪くTOPIXは下落幅が大きかった。金融政策決定会合の結果待ちに週末のG20待ちも加わる様子見ムードで、株価も売買も一服といった状況となった。

 株価が上昇した業種は紙パルプ、鉱業、保険、食品の4業種のみ。下げた業種は海運、証券、鉄鋼、非鉄、電力・ガスなど。円高進行で輸出関連株は全面安で、トヨタ<7203>は4日ぶり反落で90円安。マツダ<7261>は売買代金1位でも8円安。ソニー<6758>、パナソニック<6752>、シャープ<6753>は揃って下落し。鉄鋼株も不振だった。一方、内需系はおおむね好調で、情報・通信はNTT<9432>は昨年来高値を更新して25円高。KDDI<9433>、NTTドコモ<9437>もプラスだったが、ソフトバンク<9984>は75円安。医薬品株ではアステラス製薬<4503>が買われ、JT<2914>、高島屋<8233>、資生堂<4911>も好調だった。ネット系では海外事業の不振で255億円の特別損失を計上した楽天<4755>が22円安。「コンプガチャ問題」の影響と新作タイトルの出遅れで通期業績見通しを上場以来初の減益に下方修正したグリー<3632>は207円安と売り込まれ値下がり率3位。DeNA<2432>も67円安と悪かった。

 14日朝方の為替レートはドル円は93円台前半、ユーロ円は125円台半ばで前日午後から少しだけ円安。NYダウは35ドル安。日経平均は21.99円高の11273.40円で始まった。日経平均は小幅のプラスで推移してもTOPIXはマイナスの時間帯が多く、終値でも日経平均は55.87円高の11307.28円でプラス、TOPIXは−2.14の954.88でマイナスという「NTねじれ現象」が発生した。

 業種別では電機、海運、機械、ゴム、医薬品、繊維などが上昇し、その他金融、鉄鋼、銀行、空運、建設、不動産などが下落した。NTねじれ現象発生の原因は値下がり銘柄数が値上がり銘柄数を上回り、時価総額の大きい三大メガバンク、鉄鋼、大手不動産が揃って下落してTOPIXを押し下げた。輸出関連ではソニーは34円高だがトヨタは15円安。マツダは10円安。「iPS細胞の臨床試験承認」のニュースを受けてタカラバイオ<4974>など新興市場のバイオ関連株が一斉に反応。武田<4502> 、アステラス製薬、第一三共<4568>など医薬品大手も揃って上昇した。また、村田製作所<6981>がコイル製造の東光<6801>をTOBで、水晶部品製造の東京電波<6900>を株式交換で完全子会社化すると発表したことで、東光は、54円高で値上がり率1位。東京電波は80円高で同5位に入った。村田製作所は40円安だった。

 15日朝方の為替レートは、ドル円は92円台後半、ユーロ円は124円台前半と円高が進行。ユーロ圏GDPの悪化でECBの利下げ観測が高まってユーロ安になり、それに引きずられドルも安くなった。NYダウは9ドル安。日経平均始値は68.07円安の11239.21円。底堅い展開だったが、昼休みに「日銀次期総裁は武藤敏郎氏を中心に絞り込まれている」と報じると、金融緩和に対し穏健派の武藤元副総裁を市場が嫌気して後場は一時200円を超える下落で11100円を割り込んだ。その後は100円以上戻して133.45円安の11173.83円で今週の取引を終えた。

 業種別では上昇したのは電力・ガスの1業種のみ。下落率が高かったのは銀行、パルプ・紙、海運、非鉄、証券、建設など。電力は10電力全て株価が上昇。値上がり率5位に東北電力<9506>、6位に九州電力<9508>、10位に北海道電力<9509>が入った。卸電力会社のJパワー<9513>も値上がり率ランキング9位に入っている。値上がり率1位には昭和シェル石油<5002>が入った。2013年12月通期で利益V字回復の見通しが評価され+13.27%の69円高だった。前日発表した決算で過去最高の純利益をあげ配当見通しを10円積み増したマツモトキヨシHD<3088>は昨年来高値を更新し82円高。アサヒGHD<2502>、ニコン、太陽誘電<6976>は続伸。38円高の住友ゴム<5110>、+25.41%上昇のガンホー<3765>は決算内容の良さが素直に評価された。決算が悪かったトレンドマイクロ<4704>は167円安でファナック<6954>などとともに日経平均を大きく押し下げ、業績見通しを下方修正した北越紀州製紙<3865>は46円安で値下がり率7位に入っている。

 
 来週の日経平均は、G20次第で10000円割れも12000円接近も

 来週のマーケット展望は、15〜16日にモスクワで開催されるG20財務相・中央銀行総裁会議によって大きく左右されそうだ。日本からは麻生財務大臣、白川日銀総裁が出席する。

 まず考えられるシナリオとして、もしG20の席上、「最近の円の動きは異常。秩序を回復せよ」「為替操作している日本の金融政策には問題がある」「日本の政治家は為替について余計なことを言いすぎる」など、日本を名指しした批判や苦言がゾロゾロ飛び出し、共同声明にも反映されるような事態になったら、それは「日本は現在の為替水準で我慢せよ」ということを意味する。産業界が待ち望むドル円100円台乗せは夢に終わり、来週は少なくともドル円は90円、ユーロ円は120円近辺まで押し戻される。為替との連動性が高い日経平均は11000円割れ確実で、10000円台を維持できるかどうかという水準まで下落しそうだ。終値ベースでは10000〜10500円というところか。

 「三本の矢」のうちの1本、金融緩和の矢は外圧でへし折られ、アベノミクスは大きな危機に直面する。海外の機関投資家は指数先物を売り浴びせて株高のトレンドはあっけなく終了。短期的な調整どころか本格的なトレンド転換になり、下落基調が長く続くことになるだろう。それで個人投資家がクモの子を散らすように株式市場から逃げ出してしまえば、東京市場は昨年11月14日以前の株価低迷・薄商いの状況に逆戻りしかねない。

 もうひとつ考えられるシナリオとしては、もしG20の席上、為替レートへの言及はあっても日本を名指した批判や苦言は出てこないか、あるいはウォン高に苦しむ韓国あたりがそれを言ったとしても、他の出席者が懸念を打ち消して日本を擁護するような発言をしてフォローし、共同声明では特定の国を挙げたりせず「行き過ぎがないかを引き続き注視する」という程度の表現にとどまるようなら、日本の金融政策はG20で容認され、アベノミクスを世界が支持したとみていいだろう。少なくともドル円100円程度までの円安についてはゴーサインで、来週の為替レートはドル円は96円、ユーロ円は130円に接近していくと思われる。今週の調整局面を招いた「G20警戒感」の黒い雲が吹き払われて、青空がひろがることになる。

 国内では主要企業の決算発表がほとんど終わり、日銀次期総裁人事も「程度の差はあれ、金融緩和に抵抗する人物は選ばれない」とほぼ織り込み済みで、安倍首相が訪米してもTPPはともかくアベノミクスについてはオバマ政権に注文をつけられる心配はなく、当面は株価の足を引っ張りそうな材料が見当たらない。日経平均は来週、12000円台を目指す上昇曲線を描けると思われる。終値ベースでは11300〜11800円というところか。

 ただし、G20とは別に日本の株価にプラスにもマイナスにも作用しかねないのが春節休暇明けの中国だ。春節の連休期間中の小売売上高はエコノミスト予測では「例年を上回る」という観測が大勢を占めており、来週はその結果の速報が入ってくる。春節商戦が盛況で中国の景気回復のロケットに点火すれば、中国関連株に限らず日本株全体に良い影響が出てくるが、昨年並みあるいはそれ以下の速報が相次いだら失望を誘いそうだ。中国の消費者は大気汚染がひどくても街に出て、春節のお買物でお金を使ってくれただろうか。もっとも、「春節はすんだ。任務に復帰せよ」と尖閣諸島周辺で日本へのチョッカイを再開されたら、防衛関連株は上がっても株式市場の不安要素は増すことになる。

 アメリカでは19日にデル、21日にHP、ウォルマートの決算発表があるが、国内主要企業はもう18日のブリヂストン<5108>ぐらいしか残っていない。国内の経済指標は、19日に1月の景気動向指数改定値と全国百貨店売上高、20日に1月の通関ベースの貿易統計、12月の全産業活動指数、コンビニ売上高、21日に全国スーパー売上高、22日にパソコン国内出荷実績が出る。

 海外では18日、アメリカは大統領記念日で休場日になるがヨーロッパでは12月のユーロ圏経常収支が発表される。19日はドイツでZEW景況感調査、アメリカでNAHB住宅市場指数が出る予定。アメリカでは20日は生産者物価指数(PPI)、MBA住宅ローン申請件数、住宅着工件数、住宅建築許可件数が、21日は消費者物価指数(CPI)、中古住宅販売件数、フィラデルフィア連銀景況指数、景気先行指数と、発表ラッシュになる。ヨーロッパでは21日はユーロ圏の消費者信頼感指数、ユーロ圏の製造業とサービス業の購買担当者指数(PMI)、22日はユーロ圏の消費者物価指数(CPI)が発表される。もし、アメリカの景気に明るさをもたらしている住宅市場の好調さに陰りが出ると、それがドル安要因になって日本の株安につながる恐れがある。

 なお、2月も下旬になると、「節分天井、彼岸底」の根拠の一つである金融機関あたりの「決算対策売り」がそろそろ目立ってくる時期。建設、不動産、ノンバンク、バイオ関連あたりの昨年末から急伸した銘柄では株価の下押し圧力になるので、投資家は考慮に入れておくべきだろう。(編集担当:寺尾淳)