政府は6月15日、2018年の経済財政運営の基本方針を決めた。深刻化する人材不足解消を目指し、外国人労働者の受け入れと共に推進するのが健康な高齢者による人材の確保だ。政府の高齢者活用の指針を読み解くと、70歳定年制が見えてくる。
政府がこうした指針を示すのには増加する高齢者、不足する労働力が関係している。2017年の総人口は16年から21万人減少した一方で、65歳以上の高齢者は57万人増加した。加えて総人口に占める高齢者の割合も27.7パーセントとなり、過去最高を記録した。この統計はすなわち15歳から64歳の生産年齢人口の減少をも示すものだ。実際中小企業、特に製造業などにおける人材不足は顕著になりつつある。最近では新卒採用でも面接とほぼ同時に内定を出して人材を確保する企業さえあるほどだ。
こうした人材不足を解消するために政府が注目しているのが、まだ働ける健康な高齢者だ。13年4月に改正された「高年齢者雇用安定法」によって希望者は原則65歳まで働き続けることができるようになった。高年齢者雇用安定法により、多くの企業が高年齢者雇用確保措置を実施し、厚生労働省の調査では実に99.7パーセントの企業で社員が65歳まで働けるようになっている。一方で定年制を廃止している企業はわずか2.6パーセントにとどまった。また定年制を継続していて70歳まで働ける企業は全体の1.1パーセントにすぎない。企業の中で確実に70歳まで働ける企業はほんの一握りというのが現状だ。多くの企業が70歳定年制を採用することになれば、人材不足の解消のみならず、技能の継承などのメリットもある。
しかし政府の方針通り70歳定年制が実現することの弊害があることも見逃せない。今まで年金の支給年齢はサラリーマンの定年とセットで定められてきたという歴史がある。つまり70歳定年制と共に年金支給年齢が変わる可能性もあるのだ。加えて企業にも高齢になった社員をそのまま雇用し続けるという責任が生じる。生産性が落ちたとしても容易に解雇はできない。働く高齢者の側も、自分の意志に関係なく働かざるを得ないという状況が生じる可能性もあるのだ。70歳定年制を安易に既定路線とすることなく、企業の現状と高齢者の感情に配慮しつつ国民の理解が得られるような努力を続けるべきだろう。(編集担当:久保田雄城)