政府は民間経済団体に賃上げの要請をするなど民間労働市場への介入を強化している。こうした動きは官製春闘などと呼ばれたりしているが、市場主義の原則からいって政府が民間市場に介入することは望ましいこととは言えない。
しかし、日本だけでなく世界の労働市場では賃上げが起こりにくいというミステリーに悩まされており、日本政府がこれに対し強い対応を行うことも実務的には理解できなくもない。
実績において官製春闘以降、名目賃金は上昇している。しかし、細かく見ると賃上げの理由として人手不足の下での離職防止をあげる企業が最も多く、必ずしも政府主導の賃上げとは言い切れない側面もある。官製春闘に関し企業側はどのように感じているのであろうか。
人材サービス業のアイ・キューが自社の会員である企業の人事担当者・経営者を対象に意識調査を実施し、その結果をまとめた「日本の人事部 人事白書2018」を公表した。この中で政府主導の賃上げの是非について聞いている。
集計結果では、「望ましい」が9.0%、「どちらかといえば望ましい」が19.0%で両者を合わせると28.0%になる。これに対して「望ましくない」は14.5%、「どちらかといえば望ましくない」17.7%で両者を合わせて32.2%となっており、賛否が拮抗した結果となった。
役職別に詳細を見ると、「望ましくない」、「どちらかといえば望ましくない」を合わせた割合は、経営者・役員クラスで52.1%と過半数を超えており、経営層に反対意見を持っているものが多いようだ。
賃金の決定に関しその傾向を選択肢の中から選んでもらった結果、最も多かったものが「経営者が独断で決める」で、「当てはまる」「どちらかといえば当てはまる」を合わせた割合は48.6%と過半数近くに達しており、ガバナンスの確立といった点では未だ十分ではないようだ。
この他、女性活躍推進の成果については、「上げている」が8.9%で「どちらかといえば上げている」が36.6%、両者を合わせて45.5%と半数近くが成果を実感しているようだ。また、テレワーク導入については、「社内コミュニケーションやマネジメントへの支障」を懸念していた企業は67.5%であったが、実際に「大きな問題になった」と回答した者は1.0%にとどまった。
政府主導を望ましくないと考える経営層が多い中、政府主導の労働市場改革については少なからず成果を実感しているという側面もあるようだ。(編集担当:久保田雄城)