東日本大震災から8年。地震対策を一歩前に進める、防災意識と最新技術

2019年03月10日 13:59

ローム0306

CEATEC JAPAN2018のローム社のブースで公開された、地震検知センサモジュール搭載のデモ機。これまでの地震検知センサの課題を解決する独自のアルゴリズムが、専門家からも注目を集めた。

東日本大震災から8年。復興庁は今年1月、岩手県、宮城県、福島県のいわゆる被災3県の製造品出荷額等がようやく震災前の水準まで回復したと発表した。また、計画戸数約3万戸の災害公営住宅及び、同約1.8万戸の高台移転による宅地造成も、3月末までにほぼ完成する見通しだという。

 数字だけを見ると、被災地では着実に復興が進んでいるようにも思える。ところが、その一方で、避難生活者は未だに5万人を上回り、約5000人もの被災者がプレハブ型の仮設住宅での生活を余儀なくされている。避難区域も徐々に縮小されてはいるものの、東京電力福島第一原発近くの双葉町、大熊町、浪江町、富岡町の一部などでは、今でも許可なく立ち入ることのできない帰還困難区域が広がっており、完全復興といえるまでには、まだまだ時間がかかりそうだ。

 東日本大震災以降も日本各地で大きな地震が相次いでいる。2016年の熊本地震や、昨年の大阪北部地震、北海道胆振東部地震でも多くの被害が出てしまった。また、政府の地震調査研究推進本部では、今後30年以内に70~80%の高い確率で発生を予測し、被害規模も東日本大震災をも大きく上回ると想定している南海トラフ地震もある。しかし、正確な発生時期まで予測するのは不可能だ。

 「80%の確率で発生する」と考えるのか、「20%の確率で発生しない」と考えるのか。残念ながら、多くの人が後者の考え方を持っているのではないだろうか。これだけ頻繁に日本各地が大きな地震に見舞われていても、被災地以外の住民にとっては対岸の火事だ。もちろん、阪神大震災や東日本大震災といった未曽有の地震災害を経て、民間レベルでも防災意識は高まっている。でも、現実的に危機感を持っている人がどれだけいるかは疑問が残る。

 それを裏付けるインターネットリサーチの結果を、フィールド・クラウドソーシング事業を展開するソフトブレーン・フィールド株式会社が、同社のホームページ上で2月に公開している。20代から60代の男女4259人を対象に行った、このインターネットアンケート調査によると、防災グッズを「備蓄・保管している」と回答したのは48.8%と半数に満たなかった。そしてさらに問題なのが、自宅周辺の指定避難場所を「知っている」と答えたのは75.3%、地域の地震ハザードマップが「家にある」と答えたのは、わずか33.2%だったことだ。これでは、いざという時に右往左往するのは目に見えている。家族の命を守るためにも、今一度、家庭内で防災対策を見直す必要があるのではないだろうか。

 そして、家庭だけでなく、企業の防災意識の在り方も重要だ。

 地震は揺れも怖いが、火災をはじめとする二次災害が被害を拡大してしまう恐れがある。とくに近年は、企業設備の電化が急速に進んでいるため、ひとたび大地震が起これば電気火災などの大きな被害が懸念されている。工場ストップや生産ラインの停止など、企業活動にも甚大な被害を及ぼしかねない。

 これを防ぐには、地震発生時に正確に揺れを検知し、各種機器や装置などを安全に停止させる機能が必要だ。地震の揺れを検知すると同時に安全に機器を停止させることができれば、リスクの拡大はかなりの確率で低減できるだろう。

 そして、この地震検知機能について、日本のみならず世界からの注目を集めているのが、日本の半導体メーカー・ロームが開発した地震検知センサモジュールだ。一体、これまでの地震検知センサと何が違うのだろうか。

 実は、感震ブレーカーなどの地震検知装置の開発において、日本のメーカーは世界でもトップクラスといわれている。しかしながら、それでも解決できない問題を抱えていた。それは、これまでの一般的なセンサモジュールでは、地震による振動と日常生活における振動の違いを区別することが困難だということだ。例えば、何かがぶつかったり、大きなものが近くを通りかかったりすると、その振動やノイズでセンサが誤検知する恐れがあったのだ。

 この問題の解決に貢献するのが、ロームの地震検知センサモジュールだ。同社はハードの性能や品質の向上だけではなく、ソフト面に着目し、一年の歳月をかけて、地震の震度と高い相関性を持つSI値を用いた独自の高精度演算アルゴリズムを開発することに成功。これにより、震度5強相当以上の地震だけを検知する、正確な地震検知センサモジュールを生み出した。

 同モジュールは 昨年、CEATEC JAPAN2018でお披露目され、一躍、専門家たちの注目を集めた。また、同社のブログで公開されているインタビュー記事では、開発担当者が同製品の特長を詳細に解説しているが、従来に比べて超小型にしたことで、機器への搭載の可能性は飛躍的に高まったという。

 今後は、分電盤や照明器具、自動販売機、エレベータなど幅広いアプリケーションで採用が見込まれているほか、日本国内のみならず、地震が頻繁に発生するアジア圏や北米、中南米などでも採用が進みそうだ。

 地震はいつ起こるかわからない。だからこそ、家庭でも企業でも、対策が打てるのは「今」しかないのだ。南海トラフ地震だけに限らず、もしかすると今日、思わぬところで大地震が起こるかもしれない。東日本大震災から8年目を迎える今だからこそ、もしもの時に被害を最小限に抑えるための減殺対策を今一度、見直していただきたい。(編集担当:藤原伊織)