【日経平均】「黒田総裁」で「春一番」が吹き276円高

2013年02月25日 21:10

 前週末22日のNYダウは119ドル高で14000ドル台回復。HPやAIGの好決算に加え、セントルイス連銀のブラード総裁が「量的緩和は当面続く」とほのめかしQE3出口論議騒ぎの沈静化を図ったのも効いた。日米首脳会談の共同声明は「全品目がTPP交渉対象。交渉参加では全関税撤廃の約束は求めず」で、日本のTPP参加の道が開けた。アベノミクス批判はなかったが、シェールガスは「前向き」と報じられながら対日輸出の具体的な約束はなかった。25日未明に「政府が日銀総裁に黒田東彦氏を提示」の第一報が流れ、朝方の為替レートはドル円は94円台前半、ユーロ円は124円台半ばと円安が進行。アジア開銀総裁を務める国際派で、財務省で財務官まで務めながら政府・日銀の消極的な金融政策を批判してきた「平成の勝海舟」の総裁就任、積極的金融緩和論者の学習院大学・岩田規久男教授の副総裁就任をマーケットは歓迎。野村証券は日経平均の年末目標株価を14500円に引き上げた。

 日経平均始値は178.61円高の11564.55円で、すぐ11600円台にタッチした。東京の最低気温は氷点下だったが、東証には朝から株価上昇の「春一番」が吹く。その後は為替が円高方向に戻ったため11500円台後半に戻ってしばらく落ち着くが、後場途中から春風がまた吹き出して11600円台に乗せ、午後2時台にはつむじ風のように株価を舞い上げ、終値は276.58円高の11662.52円の高値引けだった。2008年9月29日以来の水準で、売買高は33億株だが売買代金は2兆円超え。TOPIXも980台に乗せて終えている。

 値上がり銘柄が全体の約8割を占める全面高で東証33業種は32業種がプラス。騰落率上位は海運、鉄鋼、不動産、石油・石炭、非鉄金属など。下位は小売、電気・ガス、陸運など内需系が主だった。

 TPP参加で貿易が拡大するという思惑で海運株に買いが向かい騰落率1位。川崎汽船<9107>は値上がり率11位の21円高、売買高3位、売買代金9位と大いに買われ、飯野海運<9119>が59円高で値上がり率9位になり、日本郵船<9101>が12円高で売買高8位に入った。輸出関連では44円高のソニー<6958>、12円高の東芝<6502>など電機株、65円高のトヨタ<7203>、9円高のマツダ<7261>など自動車株とともに鉄鋼株が上昇して騰落率2位になり、新日鐵住金<5401>が11円高で売買高7位に入った。

 金融緩和期待で三大メガバンクなど銀行株は全面高で、騰落率3位の不動産は三井不動産<8801>が154円高で昨年来高値を更新し、三菱地所<8802>が76円高、住友不動産<8830>が104円高と大手はいずれも大幅高。サンフロンティア不動産<8934>とケネディッックス<4321>は値上がり率ランキングで7位、8位になっている。

 テーマが重複して過熱したのが丸山製作所<6316>で、農業機械を作っているので農業・TPP関連であり、補助ポンプを作っているのでシェールガス関連でもある。ストップ高の80円高で値上がり率ランキング1位。売買高2位、売買代金4位に入る大商いだった。農業・TPP関連では井関農機<6310>が30円高で売買高11位に入り、シェールガス関連では石井鐵工所<6362>が31円高で値上がり率3位に入っている。

 一方、とりたてて悪材料がなくても軟調に推移したのが内需系で、前週は好調だった鉄道株のJR東海<9022>が30円安。セブン&アイHD<3382>やユニーGHD<8270>など大手小売株にマイナスになる銘柄が出た。花粉症やPM2.5がらみで好調が続いたドラッグストアは、クスリのアオキ<3398>が15日ぶりに下落し値下がり率18位、スギHD<7649>も30円安。電力株も低調で、四国電力<9507>と中国電力<9504>が値下がり率9位、12位にランクインした。

 三井物産<8031>と組み極東ロシアからサハリン、宗谷海峡を経由して電力を輸入する大プロジェクトを明らかにしたソフトバンク<9984>は130円高で、830円の大幅高だったファーストリテイリング<9983>、250円高のKDDI<9433>、163円高の電通<4324>、175円高のエーザイ<4523>とともに日経平均を大きく引き上げた。

 パキスタンに二輪車の新工場を建設すると報じられたヤマハ発動機<7272>は43円高。海外展開を念頭に持株会社制に移行するハウス食品<2810>は15円高で昨年来高値更新。円安メリットを活かし東南アジアの旅行市場を開拓し、海外売上3500億円を目指すというエイチ・アイ・エス<9603>も110円高と買われ昨年来高値を更新した。

 長崎市の高齢者グループホームの火災が15年前に製造したリコール対象の加湿器が原因と判明し、上釜健宏社長が弔問とお詫びに行ったTDK<6762>は、補償問題が生じるが迅速な危機管理が好感されたか15円高。炭素繊維の不振が報じられながら東レ<3402>は10円高。東レが炭素繊維を供給するボーイング787の問題でボーイング社は22日に設計変更案をFAA(アメリカ連邦航空局)に提出したが、運航再開のメドはまだ立たない。3ヵ月で1714便が欠航すると発表した全日空<9202>は値動きなしだったが、JAL<9201>は20円安で、空運はこの日、唯一の値下がり業種になった。

 中国の製造業PMI速報(HSBC)が市場予測より悪く、中国関連株の代表コマツ<6301>は9円安で引けた。ファナック<6954>も前日比プラスとマイナスを行ったり来たりしたが結局90円高。アメリカでの貧血薬の自主回収が報じられた武田<4502>はマイナス圏から大引け直前に浮上して10円高。ルネサステクノロジー<6723>は12円安と浮上できず値下がり率5位になった。

 今日の主役は悪い方で目立ったシャープ<6753>。「鴻海の出資交渉は打ち切りか?」など報道が乱れ飛ぶ中、公募増資で自力で資金を調達して資本増強を行うと産経新聞で報じられた。とは言っても現在の時価総額が約3300億円では、記事にある「最大2000億円規模」だと60%という過大な希薄化を引き起こす。それが嫌気され16円安で値下がり率4位、売買高6位、売買代金10位と派手に売り浴びせられた。株式市場に春一番が吹いても、シャープ周辺だけはこの日のお天気同様、春は名のみの風の寒さだった。(編集担当:寺尾淳)