今週の振り返り しばらく忘れていたが、やっぱりヨーロッパは怖い

2013年03月02日 18:09

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「黒田総裁」内定で急上昇した後はイタリアショックで大幅下落という落とし穴が待っていた。

 来週の展望 為替レートの変動が落ち着き「春の内需系シフト」が起きるか

 3月は年度末で、投資家も企業も株式市場も決算対策売り、配当取り、株主優待の権利取りなどであわただしくなる季節。来週8日の金曜日には最初の関門、メジャーSQ算出日を迎える。オプションも先物も関係し、企業の財テク手段の特金(特定金銭信託)の決算締め日20日が近いため、年度末の決算対策売りもからんで3月のSQは過去、大荒れになった時もあった。今年は裁定買い残が、東証が大ミスを訂正した後の数字でも例年より増えているので、個人投資家がうっかり手を出すと大ヤケドしかねない「荒れるSQ」が久々に見られるかもしれない。その結果はどうあれ、7日あたりの株式市場では日経平均11500円のようなキリのいい数字に乗せようとするメジャーSQを意識した動きが出てくるだろう。

 海外に目を向けると、NYダウの頭を押さえている強制歳出削減問題についてオバマ政権と議会共和党との間に合意が成立すれば、一気に史上最高値を抜いて上昇しそうだ。核心部分をまた先送りにしても、激変緩和措置で折りあえば悪影響は小さくなる。強制歳出削減問題の解決がドル高につながれば東京市場の円安、株高の支援材料になるが、そう単純にいかないのは、史上最高値更新がFRBの水面下でくすぶる「QE3の出口論議」に火をつけてしまう可能性があること。タカ派の連銀総裁あたりが「株価が史上最高値で量的緩和を続ける理由はあるのか?」などと口走ったらNYダウは大幅下落しかねない。しかし、QE3の終了それ自体はドル高・円安をもたらすので、日米の株価連動性よりも為替レート連動性のほうがより色濃くなっている現状の日経平均なら、QE3出口論議の影響はそれほど大きくならないかもしれない。

 どちらにしても、景気自体に心配のないアメリカよりも怖いのは、緊縮財政で不景気が続くヨーロッパでの変事が2月26日未明に起きたようなユーロの下落、緊急避難的な円買いに直結して、為替に対しセンシティブな日経平均を下落させてしまうことで、イタリアの混迷する政局は引き続き要警戒だ。

 経済指標は、アメリカでは5日にISM非製造業景況指数、6日にMBA住宅ローン申請件数、ADP雇用者数、製造業新規受注指数、7日に貿易収支、消費者信用残高、8日に卸売在庫と、インフレ率とともにQE3を打ち切る条件になっている2月の失業率、非農業部門雇用者数が発表される。地区連銀のベージュブックが出るのは6日。7日にはFRBによる大手銀行のストレステストの結果発表がある。

 ヨーロッパでは、4日にユーロ圏の生産者物価指数(PPI)、5日にユーロ圏とドイツの製造業PMI、ユーロ圏の小売売上高、6日にユーロ圏のGDP改定値と非製造業PMI、8日にドイツの鉱工業生産が発表される。4日はユーロ圏財務相会合、5日はEU財務省理事会、7日にはECB理事会が開かれ、7日にECBとイングランド銀行が政策金利を発表する。内政問題とはいえ、イタリア人のドラギ総裁が会見で母国の政局について何か言うかもしれないので注意。

 国内の経済指標は、4日にマネタリーベース、5日に毎月勤労統計の現金給与総額、7日に景気動向指数速報値、東京都心部オフィス空室率、8日に1月の貿易収支と経常収支、10~12月期の実質GDP、企業倒産件数、2月の景気ウォッチャー調査の結果が発表される。4日には日銀の新総裁、新副総裁内定者の3人が国会で所信聴取を受ける予定。副総裁に内定した岩田規久男氏は早くも雑誌インタビューで話した内容が1日の日経平均の値動きにプラスの影響を及ぼしており、発言に注意するよう野党からクギを刺されるかもしれないが、閣僚なら不問に付すのか。6~7日には日銀の金融政策決定会合が開かれ、19日に退任する白川総裁にとっては最後の晴れ舞台になり、7日に記者会見を行う予定。同じ日に日銀の政策金利が発表されるが据え置きの公算が大きく、日銀の内も外も心はすでに「黒田日銀」に向かっている。

 「世界の工場」こと中国の2月の製造業PMIは、HSBCの確報値が50.4、中国物流連合会のほうが50.1で低下しているが、今年は春節休暇がまるまる入ったという事情もある。来週は5日から日本の国会にあたる全国人民代表大会(全人代)が開幕するが、中国政府が週末にまとめて発表する2月の経済指標にも注目したい。8日に出る貿易統計、9日に出る消費者物価指数、生産者物価指数、鉱工業生産、小売売上高の数値をチェックすれば、春節休暇明けの景気回復のペースがつかめるだろうか。何かサプライズがあれば、来々週の東京市場に影響するかもしれない。

 なお、今週の株式市場で大きなテーマになったTPPは、4日から13日までシンガポールで第16回交渉会合が開かれる。

 3月1日に発表された1月の消費者物価指数(CPI)は依然マイナスだったが、1月の家計消費支出はプラス2.4%で3.1ポイントも上昇して市場関係者を驚かせた。この2つの数字から来週、3月、そしてこの春の有望業種が少し見えてくる。

 為替は、ドル円については企業物価ベースの購買力平価(PPP)96.13円に接近していて、「高すぎる円」の修正過程が終わりかけている(PPPは国際通貨研究所が算出した値)。そのためこの先、消費者物価指数がマイナスになるデフレ状態から脱却しない限り、昨年末のような急速な円安進行はしばらく望めないだろう。ドル円レートはすでに、上げたり下げたりしながら数カ月ぐらいかけてゆっくりと95円、さらにインフレ分も見込んで100円を目指していくモードに入っている。そのように為替の動きが停滞すると、自動車や電機に代表される輸出関連銘柄が円安の進行で盛んに物色されるような状況は、たとえあったとしても長続きはしないだろう。

 一方、景気ウォッチャー調査の結果などから、個人消費はアベノミクス効果で少なくとも消費マインドの点では着実に改善していたが、1月の家計消費支出のポジティブサプライズで、それがいよいよ経済指標にも反映しはじめた。来週8日に景気ウォッチャー調査で上向きの結果が出れば、期待はますます高まる。個人消費が上向けば小売業や、外食などサービス業の業績改善にスピーディーに反映するが、それを先取りして、情報・通信、陸運、食品なども含めた内需系銘柄全般が今後、市場で買いを集める主役になってくるのではないか。今週、地価上昇を見込んで不動産株や倉庫株が盛んに買われたのは、その前ぶれのようにも思える。ごく短期の循環物色と見る向きもあるが、それよりも長いスパンの内需系シフトが始まっていると見たい。

 変化の激しい為替レートに敏感な輸出関連銘柄中心から安定した個人消費に支えられる内需系銘柄へのシフトが進めば、平均株価は「上値はそれほど追えないが、下げても底堅く推移」という落ち着いた動きになる。来週はそんな市場トレンドの変化も感じさせながら、日経平均はメジャーSQの8日を除けば振れ幅は小さく、11300円~11700円のレンジで動くのではないか。歩みは遅く感じられても、日本経済が内需主導で本格回復して株価のファンダメンタルズの地固めが進む時期は、着々と近づいている。(編集担当:寺尾淳)