ホルムズ海峡の安定はなぜ重要なのか 日本企業と暮らしを支える「海の物流」

2026年06月15日 09:28

画・原油価格。OPECプラスは減産幅縮小(増産)も、需要旺盛で高値持続の見込み。

日本は原油や天然ガスの多くを海上物流に依存しており、ホルムズ海峡の安定は企業活動や家計を支える重要な基盤となっている(資料写真)

今回のニュースのポイント

米国とイランが戦闘終結に向けた覚書に合意し、日本政府も歓迎する姿勢を示しました。注目されるのは、世界有数のエネルギー輸送路であるホルムズ海峡の安定です。日本は原油やLNGなど多くの資源を海外に依存しており、海峡の安全は企業活動だけでなく、ガソリン価格や電気料金、食品価格など私たちの暮らしにも大きな影響を与えます。

本文
 中東地域における緊迫した外交ニュースが報じられる際、私たちはどこかでそれを「遠い異国の出来事」と捉えがちです。しかし、日本政府も歓迎の意を示した今回の米国とイランによる戦闘終結に向けた覚書合意は、日本の経済社会にとって極めて切実な意味を持っています。なぜなら、日本に届く原油や天然ガス、そして数多くの貨物は広大な海を渡って運ばれており、その海上物流の最大の要所こそがホルムズ海峡だからです。地政学的リスクの緩和は、日本経済を支える「海の物流インフラ」の安定に直結しています。

 日本はエネルギー資源の大部分を海外に依存する資源小国であり、国内の産業基盤は文字通り「海」を通じて動いています。なかでもイランとオマーンに挟まれた幅約39キロのホルムズ海峡は、世界の石油供給量の約2割が通過する原油の大動脈です。日本の原油輸入はその約95%を中東地域に依存しており、さらにそのうちの約93%がこの海峡を経由して運ばれています。また、液化天然ガス(LNG)に関しても、ホルムズ海峡を経由する割合は日本の輸入量全体の約6%に留まるものの、世界のLNG貿易の約2割が同海峡に依存しているため、市場価格への影響は免れません。原油や石油化学原料の安定調達が滞れば、製造業や電力会社、物流・航空、さらには食品メーカーに至るまで、国内のサプライチェーン全体が深刻な機能不全に陥ることになります。

 こうした海上ルートの緊張状態は、企業の調達コストをダイレクトに押し上げる要因となります。有事の際には原油の指標価格そのものが急騰するだけでなく、着荷総原価を構成する戦時保険料や船会社に支払う用船料金、海運運賃、さらには燃料費などが同時に跳ね上がるためです。陸上のパイプラインを用いた代替輸送ルートも存在しますが、その追加余力は海峡の通常通過量には遠く及ばず、限定的なカバーに留まります。つまり、海峡周辺の不安定化は単なる資源高にとどまらず、企業の製造コストや物流費、電力コストを全方位的に圧迫し、企業収益や決算を大きく損ねるリスクをはらんでいるのです。

 そして、企業コストの増大は家計へと波及し、私たちの日常生活の実質的な負担を左右することになります。ガソリンや軽油、ジェット燃料の価格は原油相場と為替の動向を強く反映するため、海峡の封鎖リスクが高まればエネルギー価格の深刻な高騰を招きかねません。また、原油高の影響は数カ月のタイムラグを経て家庭の電気・ガス料金や工場の燃料コストへ反映される構造になっています。それだけではなく、トラックや船舶の燃料費上昇に伴う物流コストの増加、ナフサを原料とするプラスチック製品や肥料、食品パッケージへの価格転嫁を通じ、最終的にはスーパーに並ぶ食料品の値札や宅配料金など、ありとあらゆる生活物価へと広く波及していくことになります。

 今回の覚書合意は、単なる外交上の前進という意味にとどまらず、日本企業の物流やエネルギー調達を支える海上インフラの安定につながる可能性を持っています。ホルムズ海峡は遠い中東の海峡ではなく、日本へ原油や天然ガスを運ぶ重要な物流ルートです。その安定は企業活動を支え、物価や家計にも静かに影響を与えています。グローバル経済の時代において、海上物流の安全は企業収益と暮らしを支える経済インフラそのものと言えそうです。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)