技術は「開発」から「標準戦略」へ 特許庁が新審査制度を開始

2026年06月19日 06:17

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特許庁が導入する「標準戦略対応審査」は、標準化活動に合わせて特許審査の開始時期を調整できる新制度です。研究開発支援から国際標準のルール形成支援へと広がる日本の産業政策を象徴する取り組みとして、AIや6G、自動運転など次世代技術分野における知財戦略への影響をマクロ視点で読み解きます。

今回のニュースのポイント

特許庁は、標準化活動に関わる特許について、企業が希望するタイミング(審査請求から12~24か月後)で審査を開始できる「標準戦略対応審査」を導入する。標準化と知財取得を一体化し、日本企業の国際競争力強化を狙う制度であり、「研究開発支援」から「ルール形成支援」へと重心を広げる政策の方向性を示しています。

本文
 特許庁が令和8年6月に公表したガイドラインで示した「標準戦略対応審査」は、研究開発成果としての知的財産を市場獲得と市場拡大の両立へとつなげることを目的に、標準化活動と知的財産戦略を一体的に運用するための新しい仕組みです。この制度は、標準化プロセスの時間軸に合わせて特許審査のスケジュールを柔軟に動かすことができる点に本質があり、国による産業政策が従来型の研究開発支援や設備投資支援にとどまらず、国際標準の策定をはじめとするルール形成を後押しする方向へ一歩踏み込んだものとして位置付けられます。特許庁は、標準化と知的財産の一体的な活用を適切に進める重要な手段として本施策を導入し、標準化活動の進捗に合わせた柔軟な特許審査を可能にすることで、企業の国際標準戦略を制度面から支援する方針です。

 ガイドラインの冒頭では、市場獲得と市場拡大の両立のために標準化と知的財産の一体的な活用が必要であることが明記されており、技術そのものの優位性だけでなく、標準仕様における位置づけを適切に押さえることがビジネス上の重要な勝ち筋になっている現状認識が示されています。標準仕様に採用された技術は、その後の市場全体で広く採用される可能性が高く、人工知能や通信、自動運転、ロボティクス、半導体といった最先端技術分野を中心に、標準化活動の重要性が世界規模で一段と高まっている実態を背景にした制度設計となっています。

 これまでは、標準化のプロセスと特許審査のプロセスが別々の時間軸で進行していたため、事業者等において両者のタイミングを調整することは難しく、標準化の進捗に合わせて効果的に特許権を取得することが企業にとって共通の課題となっていました。

 今回開始される新制度は、出願人自身または発明者の属する企業等が規格の制定や普及に向けた標準化活動を行っている技術に関する特許出願を対象とし、出願人の希望するタイミングで審査を開始できる点が特徴です。出願人が希望可能なタイミングは審査請求から最短で12か月後、最長で24か月後の範囲内とされており、標準化のプロセスが特許審査よりも一般的に時間を要する実態に対応しています。企業側は、標準化の進捗を綿密に見極めながら「標準が固まる前後に権利範囲を確定させたい」という戦略的な時期に合わせて審査開始月を指定できるため、標準戦略と知的財産戦略を同じ時間軸で効率的に同期させることが可能となります。

 実務的な手続きとしては、まず事前手続きとしての枠取りが必要となります。申請を希望する出願人は、毎年1回、7月から9月までの期間に翌年10月1日から翌々年9月30日までの1年間に申請を予定する出願番号のリストを特許庁へ提出して応募を行う必要があります。特許庁は、この応募リストや過去の動向を総合的に考慮したうえで、テーマと呼ばれる技術範囲ごとに当該1年間における標準戦略対応審査の申請可能件数を出願人へ通知します。実際の特許出願ごとの手続きにおいては、対象となる出願の審査請求日から起算して5開庁日以内に、標準の開発機関や見込み時期を記載した申請書をメールで送付すると同時に、標準化活動を行っている機関の名称や審査の着手希望時期を記載した上申書を提出する必要があり、特許庁への手続きに係る手数料は不要となっています。

 この制度のもう一つの重要な側面は、ルール形成の現場と特許審査を直接的につなぐ対話プロセスが組み込まれている点です。申請が認められた特許出願については、通知された着手予定月の4か月前までに特許庁側の取りまとめ担当者情報が通知され、着手予定月の1か月前を目安にスケジュールを調整して面接が実施されます。この面接の場において、出願人側の担当者は審査官に対し、標準戦略における標準対象技術の位置づけや、開発される標準と出願との具体的な関係、技術的な詳細説明を直接行うことができます。審査官は、実際のルール形成の現場における標準の内容や特許出願の客観的な位置づけを十分に把握したうえで審査に臨むこととなり、企業側は必要に応じて面接までに標準の内容に対応した権利範囲となるよう請求項を補正することが推奨されています。

 従来の産業政策が研究開発の補助や設備投資のインフラ支援を中心としていたのに対し、今回の取り組みは、標準化という国際的なルール作りの時間軸に合わせて特許行政の運用を柔軟に変更するものであり、国が企業の標準化活動を制度設計の根幹から支える色彩を強く帯びています。出願人から直接説明を受けたうえで審査を行う一連の枠組みは、標準仕様に的確に合致したクレーム設計や知財戦略において、日本企業の国際競争力を支える重要な基盤として機能する可能性があります。

 人工知能や6G通信、自動運転、ロボティクス、次世代半導体など、国際標準を巡る主導権競争が激しさを増す分野において、標準化と知的財産戦略を同じ時間軸で統合的に推進できる今回の新制度は、日本企業の国際標準戦略を支える制度的インフラとして機能する可能性があります。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)