猛暑の街はどう変わるのか 丸の内が挑む「クーリングシティ」実験

2026年06月24日 16:14

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丸の内仲通り全体を活用して実施される「Marunouchi Street Park 2026 Summer」のイメージ。日陰、風、ミスト、音・香りなどによる暑熱対策に加え、夜間活用やウェルネスイベントも組み合わせ、酷暑時代の都市空間のあり方を検証する社会実験が行われる。(画像:三菱地所ニュースリリースより)

今回のニュースのポイント

三菱地所などで構成する実行委員会は24日、東京・丸の内仲通りで道路空間を活用した社会実験「Marunouchi Street Park 2026 Summer」を開催すると発表しました。日陰の創出や送風設備、ミスト冷却、音や香りによる五感の涼感演出に加え、夜間の賑わい創出(ナイトタイムエコノミー)を検証する試みです。背景にあるのは、常態化する酷暑がもはや季節現象ではなく、都市運営やオフィス街の競争力を左右する構造的課題となりつつある現実です。本稿では、猛暑時代における都市設計の変化と新たな価値基準を読み解きます。

本文
 近年の日本社会において、夏季の猛暑・酷暑の常態化は深刻な社会課題となっています。熱中症による救急搬送者数の増加や屋外空間における経済活動の制限は、人々のライフスタイルだけでなく、都市のあり方そのものに変革を迫っています。これまで、夏の暑さ対策は帽子や日傘の着用、こまめな水分補給といった「個人の努力」に委ねられる傾向が強くありました。しかし、日中の屋外環境が命の危険を伴う水準に達するなか、個人の対策だけでは都市の活性化や快適性を維持することに限界を迎えつつあります。

 こうした背景のもと、日本のビジネスの中心地である丸の内で始動するのが、都市空間そのものを暑さに適応させる「クーリングシティ」の社会実験です。三菱地所、大丸有エリアマネジメント協会、大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会で構成する実行委員会は、7月24日から8月23日までの期間、丸の内仲通りを舞台に「Marunouchi Street Park 2026 Summer」を実施します。過去最多となる11社の共創企業が参入し、最先端の機能性素材や冷風装置を街頭に配備して、屋外空間における快適性向上の実証に挑戦します。

 今回の実験で導入されるアプローチは多岐にわたります。例えば「日陰エリア」では、高い遮熱性を持つ特殊なシェード素材を用いてマイナス4℃以上のクーリング効果を生み出し、日向との滞在人数の差異などを検証します。また「風エリア」では、背面などから涼風を送り出すことで体感温度を通常時より約5℃低減する空調機能付きベンチが配置され、「ミストエリア」では気化熱によって周囲温度を2〜4℃低減させる効果が計測されます。さらに、遮熱・断熱技術を施して表面温度を約10℃抑制した人工芝の敷設や、音や香りによって感覚的な癒しを与えるエリアも整備されます。これは単なる局所的な涼感演出ではなく、都市のハードウェアとソフトウェアを動員した空間適応実験と言えます。

 ここから見えるのは、暑さ対策が「個人のポータブルな防衛」から「都市の公共設計」へと明確に移行し始めているという構造変化です。日よけ、風、緑化、さらには五感の演出をあらかじめ組み込んだ街路や滞在環境の設計は、これからの都市計画において必須の要素になりつつあります。

 同時に、今回の実験が示すもう一つの重要な柱が、都市の「夜間活用(ナイトタイムエコノミー)」へのシフトです。本取り組みでは昼の「Cooling Day」に対し、夜間は「Neon Night」と題した演出が行われます。各什器をネオンやランタンで彩り、就業者や来街者が終業後に気軽に立ち寄れる飲食スペースやモクテル(ノンアルコールカクテル)スタンドを設置するほか、夜風を感じながらのリフレッシュエクササイズなどのプログラムも展開されます。猛暑によって日中の屋外活動が物理的に制約されるなか、比較的過ごしやすい夜間の時間帯へ都市の交流や経済活動をシフトさせる試みは、すでに中東や南欧などの酷暑地域で進む「24時間都市化」の変革と軌を一にしており、日本でも同様の都市利用の本格化を予感させます。

 なぜ、大手ディベロッパーである不動産会社がこれほど大規模に屋外の暑さ対策や夜間利用の実証に取り組むのでしょうか。その背景には、三菱地所が推進する「まちまるごとワークプレイス構想」に代表される、次世代のビル運営戦略があります。現代のオフィス市場において、不動産会社の本質的な役割は単にビルという物理的な箱(オフィス空間)を貸し出すことだけにとどまりません。多様な働き方が広がるなか、街全体の快適性、歩行のしやすさ、屋外を含めた滞在価値そのものをどれだけ高められるかが、テナント企業の満足度や都市そのものの国際競争力を左右する時代に突入しているためです。

 エネルギー分野では脱炭素技術の開発が進む一方で、都市を開発する側は「発生する熱からいかに人を守り、街の機能を維持するか」というインフラの快適性を担保する役割を担っています。

 今後、さらなる気温上昇や高齢化、インバウンド(訪日外国人)の増加が見込まれるなかで、都市の価値基準は「規模」や「ビルの高さ」から、「涼しさ」や「24時間の快適性」へと移行していく可能性を示唆しています。丸の内で始まったこのクーリングシティの試みは、これからの酷暑時代を生き抜く日本の都市空間再設計における、重要な試金石となるかもしれません。 (編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)