物価上昇はモノからサービスへ 新局面が見え始めた日本経済

2026年06月24日 14:10

画・後継者不足の企業にミロク情報サービスが事業継承サポート 

オフィスビルが立ち並ぶ都市部。企業向けサービス価格の上昇が続くなか、日本経済では資源高や円安による「モノのインフレ」から、人件費や人手不足を背景とする「サービスのインフレ」への移行が注目されている。(写真:イメージ)

今回のニュースのポイント

日本銀行が24日に公表した2026年5月の企業向けサービス価格指数(SPPI・2020年平均=100)速報値は、総平均で前年同月比3.3%上昇となりました。運輸や人材関連サービスを中心に価格上昇が続いており、企業間取引におけるサービス価格の上昇基調が定着しつつあります。これまでの物価上昇は資源高や円安にともなう「モノのインフレ」が中心でしたが、現在は国内の人件費や人手不足を背景とした「サービスのインフレ」へ軸足が移行し始めています。本稿では日銀統計の最新データから、日本経済の新たな局面を読み解きます。

本文
 2022年以降、日本経済を揺るがし続けてきた物価上昇の構造が、緩やかな変貌を遂げつつあります。これまでのインフレを牽引していたのは、原油をはじめとする資源価格の高騰や歴史的な円安による輸入コストの増大、すなわち外的な要因による「モノの価格上昇」でした。企業は原材料費やエネルギー費用の高騰に直面し、製品価格への転嫁を進めてきました。これはいわば、海外からのコストを国内へ反映させる「輸入インフレ」の局面であったと言えます。

 日銀が公表した最新の企業向けサービス価格指数は、物価上昇の主因がこれまでの海外発の要因から、国内の内発的な要因へと少しずつ移行し始めている現実を示しています。5月の総平均は前年同月比3.3%上昇となりました。もっとも、内訳を詳細に見ると「外航貨物輸送」が前年比61.8%上昇、「国際航空貨物輸送」が57.7%上昇を記録するなど、依然としてグローバルな物流コストの影響も色濃く残っています。そのため、モノのインフレが完全に終了したと断定することは時期尚早ですが、為替などの変動に左右されやすい国際運輸を除いた総平均ベースでも3.0%の上昇となっており、国内のサービス取引において底堅い上昇基調が続いていることは確かです。

 具体的にどの分野が上昇しているのか、その個別動向を見ると、現在の日本経済が抱える構造的課題が浮き彫りになります。5月のデータでは、道路貨物輸送が前年比3.8%上昇、国内航空旅客輸送が4.3%上昇するなど「運輸・郵便」全体で5.5%の伸びを記録しました。さらに、企業の深刻な採用難を背景に「職業紹介サービス」が7.2%上昇、「労働者派遣サービス」が3.3%上昇と人材関連サービスの上昇が目立っています。加えて、インバウンド(訪日外国人)需要の高まりが交錯する「宿泊サービス」も8.3%上昇と高い水準を維持しています。これらのサービスに共通するのは、機械化や自動化による代替が難しく、どうしても人の労働力を直接必要とするビジネスモデルであるという点です。

 すなわち、現在のサービス価格を押し上げている根底にあるのは、国内の「人手不足」とそれにともなう「賃上げ」の動きです。生産年齢人口の減少が進むなかで、企業が活動を維持するためには、賃金の引き上げや採用コストの増大を受け入れざるを得ません。そして、その高まった人件費の負担が、取引価格(サービス価格)の上昇という形で少しずつ表面化し始めているのです。

 この変化は、中央銀行である日本銀行の金融政策にとっても重要な意味を持ちます。日銀はこれまで、春季労使交渉(春闘)などによる賃金の上昇が一時的な現象にとどまらず、持続的に物価を押し上げる環境が整うかどうかを慎重に見極めてきました。原材料高のような海外要因によるモノの価格上昇は、資源価格の下落によって反転することがあります。しかし、人件費や労働需給という国内の構造に裏打ちされたサービス価格は、一度上昇を始めると下がりにくい特性を持っています。今回の統計は、日銀が注目してきた「賃金上昇→サービス価格上昇」という内発的な物価上昇圧力の兆しが、徐々に形成されつつある新局面を映し出しています。

 日本の物価構造が「モノのインフレ」から「サービスのインフレ」へ移行し始めているという動きは、最終的に一般の家計や生活者にも波及する可能性があります。企業間で取引される物流費や人材コスト、事務所賃貸(5月は2.7%上昇)などの費用が高止まりを続ければ、それは消費者が直接目にする宅配料金や公共交通費、宿泊費、各種サービス料金の最終的な上昇を促す経路を描くためです。

 デフレ脱却のその先を見据える日本経済において、最新の日銀統計が示したサービス価格の動きは、インフレの性質が外圧依存から国内の需給と雇用を反映した形へと、緩やかに変化し始めていることを示す重要なシグナルであると言えそうです。 (編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)