台風は来る前提へ 国が進める「気候変動への適応」とは

2026年06月26日 07:15

今回のニュースのポイント

気候変動適応推進会議は、気候変動適応計画に基づく施策の進展把握・評価に関する最終報告書案を取りまとめました。極端な大雨や猛暑などの影響が顕在化するなか、温室効果ガスの排出を抑制する「緩和」だけでなく、被害を回避・軽減する「適応」の重要性が高まっています。洪水や高潮、土砂災害などの防災インフラ分野で対策の効果が確認された反面、国民への認知度は低水準に留まっており、行政との認識のギャップが浮かび上がっています。

本文
 国内の防災政策や社会インフラのあり方が、気候変動の影響の激甚化にともない根本的な転換期を迎えています。これまでの気候変動対策は、二酸化炭素(CO2)の排出量を削減して温暖化そのものを食い止める「緩和」の取組に議論が集中する傾向がありました。しかし、中長期的に避けられない環境変化がすでに顕在化している現代において、政府は発生する被害をいかに回避・軽減するかという「適応」の取組を政策の柱の一つとして位置付けています。気候変動適応推進会議が取りまとめた最終報告書案は、計画の実施による適応の進展を5年ごとに検証する仕組みに基づき、国、地方自治体、国民の各レベルにおける進捗と効果を総合評価した初めての報告書案です。

 今回の評価結果において、最も具体的な進展が確認されたのが、治水や土砂災害対策をはじめとする自然災害・沿岸域の防災インフラ分野です。全24個の重要評価単位のうち、河川の洪水・内水対策や高潮・高波への備え、山地での土砂災害対策、インフラ・ライフラインの維持といった広範な分野において、最上位評価である「A:継続・強化(適応施策による気候変動影響の低減効果が現れている)」の判定が下されました。具体的な個別指標を見ても、事前放流の実施体制が整った水系の割合が目標を達成しているほか、一級・二級河川における戦後最大洪水等に対応した河川の整備率も着実な進捗を示しています。これは、豪雨等の気象外力自体が強まっている環境下にありながらも、ハード・ソフト両面での防災政策が、社会の脆弱性を確実に低下させている実態を反映しています。

 行政による防災インフラ整備が進展しているこれに対して、社会全体での適応の浸透という観点からは、深刻な意識のギャップがデータに刻まれています。気候変動適応という言葉と、実際の取組内容をともに理解していると回答した国民の割合は、2020年11月の内閣府世論調査で11.9%、2023年7月調査で12.7%、そして最新の2025年9月調査(2026年1月公表)では11.4%と推移しており、事実上の横ばいで低迷しています。災害の激甚化にともない行政側の危機感が高まる反面、主たる生活者である国民の認識がそれに追いついていない構造が、適応政策を強力に推進していくうえでの課題として浮上しています。

 この国民との認識の乖離を埋め、各地域の実情に応じた具体的な適応策を社会に実装していくうえで、今後の主役となるのが地方公共団体です。全国の都道府県や政令指定都市における「地域気候変動適応計画」の策定率自体は、2023年度までに100%へと到達し、制度的な外枠の整備は概ね完了しました。反面、地域の情報拠点となる「地域気候変動適応センター」の設置率は73%に留まっているほか、自治体が策定する総合計画や地域防災計画に気候変動適応の明確な視点を反映できている割合は52%と約半数に留まっており、地域での実装はなお途上にある特徴を示しています。気候変動がもたらす影響は地域ごとに大きく異なるため、国の画一的な方針だけでなく、地方自治体がどれだけ実効性のある対応力を発揮できるかが国全体の強靱化を左右します。

 異常気象を一時的な「例外」として捉える時代は去り、経済社会は「災害は確実に発生する」という大前提のもとでの運用を余儀なくされています。大型の台風や想定を超える豪雨、激しい猛暑そのものを人間の力で止めることはできません。だからこそ今後の都市計画や産業政策に求められるのは、災害を完全に「防ぐ」という過去の固定的な発想からの脱却です。河川整備や流域治水の推進、ハザードマップによる浸水想定情報の迅速な周知、さらには早期避難の徹底や熱中症対策の強化を組み合わせ、被害の発生をあらかじめ織り込んで社会全体の被害を最小化する社会設計への移行が急務となっています。

 この高コストかつ広範なインフラの適応能力の向上は、公共工事や住宅価格、民間設備投資のあり方を含め、日本経済の安定性を左右する重要な要素となりそうです。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)