日本の製造業、供給制約は取引網通じ波及 日銀研究、自動車は「長く裾野広い」供給網

2026年08月12日 18:55

さくらレポートイメージ (1)

製造業の生産現場のイメージ。日銀の研究では、企業・品目単位のデータから日本の製造業のサプライチェーンを可視化し、供給制約が取引網を通じて波及する構造を分析した(画像はイメージ)

今回のニュースのポイント

日本銀行は、企業間取引データを用いて日本の製造業のサプライチェーン(供給網)を分析したワーキングペーパーを公表しました。企業や品目単位の高粒度なデータをもとに供給網を可視化したところ、自動車メーカーを中心とするサプライチェーンは他産業と比べて「長さ」と「裾野の広さ」が突出していることが定量的に確認されました。また、供給網のボトルネックとなる企業・品目で供給制約が発生した場合、製造業全体の生産を大きく押し下げる可能性がある一方、在庫の保有にはその影響を一定程度緩和する効果があることも示されました。

本文
 日本銀行は、企業間取引データを用いて日本の製造業におけるサプライチェーン(供給網)の構造を可視化したワーキングペーパー(論文)を公表しました。高粒度な企業・品目レベルのデータ分析から、日本の製造業が持つ重層的な供給網の特徴と、供給制約が発生した際のマクロ経済への波及メカニズムが定量的に明らかにされています。なお、論文の内容や意見は執筆者個人に属し、日銀の公式見解を示すものではありません。
分析にあたっては、帝国データバンクの企業間取引データ(2025年時点、資本金5000万円以上の製造業1万5022社・延べ10万5481件)に、総務省・経済産業省の「経済構造実態調査」や総務省の「産業連関表」を組み合わせました。中間投入以外の資本財購入などを除外し、最終的に1万3013社、2056品目、延べ110万5563件の取引からなる詳細な生産ネットワークデータを構築して検証を行っています。

■自動車のサプライチェーンは「長さ」「裾野」とも突出

 研究では、サプライチェーンの最下流に位置する最終財生産企業(「頂点企業」)として197社を特定し、そこに連なるサプライヤーを「Tier1」「Tier2」……と階層化して構造を分析しました。

 その結果、輸送機械、とりわけ自動車メーカーを中心とするサプライチェーンは、構造の「長さ」と「裾野の広さ」の双方において他産業を大きく引き離して突出していることが判明しました。輸送機械では1つのサプライチェーンに属するTier(一次、二次以降のサプライヤー)企業数が平均で2000社弱にのぼります。一般機械でも建設機械などを中心に3000~4000社規模の供給網を持つ企業が確認されました。

 一方で、電機・IT分野は一部を除いて供給網の規模が相対的に小さく留まりました。論文では、自動車などで国内の垂直統合型(系列)の企業関係が維持されているのに対し、電機・ITでは国際的な水平分業が進んだ実態を反映している可能性を指摘しています。

■一つの供給制約が製造業全体へ拡大するリスク

 巨大で重層的なサプライチェーンは効率的な生産を可能にする一方、一部の供給が途絶した際にはショックを広域へ伝える経路にもなり得ます。研究では、代替調達が困難で下流の生産へ広範な影響を与える企業・品目を「ボトルネック」として321品目・286社を抽出。対象には集積回路やピストンリングなど、半導体や自動車関連の製品・部材も含まれています。

 これらボトルネック品目で供給制約が発生した場合のシミュレーションを行ったところ、ネットワークを通じた波及効果により、マクロの製造業全体の生産を大きく押し下げることが確認されました。シミュレーションからは、特定の企業・品目で生じた供給制約がネットワークを通じて広範囲へ波及し得ることが示されており、自然災害や地政学リスク、通商政策の変化など、供給網を揺るがすリスクを考えるうえでも示唆を与える結果といえます。

■「在庫」は供給網を守る緩衝材としての機能を発揮

 一方で、供給制約による落ち込みを緩和する手段として注目されるのが「在庫」です。

 シミュレーションでは、在庫を考慮することで供給制約による生産への影響が一定程度緩和される結果となりました。また、過去の在庫水準(2000年代半ば)を用いた場合との比較からも、在庫の厚みが供給制約の波及を和らげる可能性が示されています。こうした結果は、在庫がサプライチェーンの強靱性を支えるバッファーとしての役割を持つことを示唆しています。

■効率性と強靱性の適正なバランスが課題

 日本の製造業を支える複雑なサプライチェーンは、生産活動を企業間で結び付ける一方、特定の企業や品目で発生した供給制約を広範囲へ伝える経路にもなり得ます。供給網のボトルネックを把握するとともに、在庫が持つ緩衝効果も踏まえ、効率性と強靱性をどう両立するかが今後の重要な論点となりそうです。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)