今回のニュースのポイント
特許庁は20日、産業構造審議会の特許制度小委員会で、悪質な特許権侵害を抑止するための民事救済措置について議論します。現行制度では、侵害者が得た利益を基に損害額を推定する仕組みがある一方、市場の違いや競合品、侵害者の営業努力などを考慮して推定額が減額され、損害賠償後も侵害者側に利益が残る場合があります。特許庁の裁判例調査では、2019年以降の対象26件で、権利者への支払いを命じられた損害賠償額が計約56億円だったのに対し、推定覆滅が認められた利益額は計約144億円に上りました。悪質・故意の侵害を念頭に、現行制度で十分な抑止効果が得られているのかを検討します。
■ 特許侵害しても「利益が残る」現行制度
特許庁は8月20日、産業構造審議会知的財産分科会の第57回特許制度小委員会を開き、特許権侵害に対する民事救済措置のあり方について議論を進めます。
前回6月の委員会では、国内企業への侵害実態調査をもとに「覆滅率の推移から侵害した者勝ちといえる状態であり、十分な抑止効果や賠償が得られない」「故意の侵害で得た利益が手元に残る状態は是正が必要だ」といった強い課題意識が委員から示されました。特許庁も、特許発明の実施を権利者が専有する制度でありながら、結果的に侵害者側に利益が残り得る状況を課題として整理しています。
現在の特許法102条2項では、侵害者が得た利益額を権利者の損害額と推定して賠償を求めることができます。しかし、裁判では市場の違いや競合品の存在、侵害者の営業努力、特許技術が製品の一部にとどまることなどを理由に、損害額の推定を一部取り消す「推定覆滅」が認められます。制度上、侵害者の利益すべてが直ちに権利者の損害とは言えない事情を考慮する仕組みですが、その結果、損害賠償後も侵害者側に一定の利益が残り得ます。
■ 賠償56億円、推定覆滅された利益は144億円
特許庁がまとめた2019年から2024年までの裁判例調査(26件)によると、特許法102条2項により損害額が算定された事例において、権利者への支払いが命じられた損害賠償額の総額が計約56億円だったのに対し、相当因果関係がないとして推定覆滅が認められた利益額の総額は計約144億円に上りました。
推定覆滅とされた金額は賠償額の2.5倍以上に達しており、2019年の知財高裁大合議判決以降、裁判での平均覆滅率は約50%で推移しています。これは144億円の違法な利益が確定したことを示すものではありませんが、賠償金を支払った後も侵害者側に実質的な利益が残り得る構造を示しています。
被害を受ける企業側の認識からも、こうした課題がうかがえます。特許権を侵害されたと感じた企業(293社)へのアンケートでは、相手方が自社の特許を既に知っていた、あるいは「おそらく知っていたと思った」と答えた割合が合わせて67.2%に達しました。故意や悪質性が疑われるケースであっても、訴訟費用や回収できる賠償額を考慮した費用対効果の低さから、訴訟提起を断念したヒアリング事例も報告されています。
■ 悪質な侵害、どう抑止するのか
政府が閣議決定した日本成長戦略や知的財産推進計画でも、損害の回復と侵害者利益の剥奪を確実にする民事救済措置のあり方を検討する方針が盛り込まれています。前回の委員会では、過去に議論された「利益吐き出し型」の制度を含め、侵害者の悪質性や故意を考慮した抑止策を議論すべきだとの意見や、故意の侵害によって得た収益を権利者に引き渡させる新たな権利保護制度を検討課題に含めるべきだとの意見が出されました。
ただし、今回の議論で特定の賠償制度の導入が決まるわけではありません。制度変更を行う場合には、悪質性の高い侵害など対象となる事案をどのように絞り込むのか、現行の民事救済措置で不十分な場合にどのような対策が適切かという線引きが焦点となります。
知的財産への投資を企業の成長につなげるには、侵害された場合に実効的に保護される仕組みが不可欠です。一方で、大多数の企業が適切に対応している実態も踏まえ、真に問題となる事案をどのように特定するかも重要になります。悪質な侵害をどのように定義し、イノベーションを阻害せずにどう実効的な抑止策を講じるのか、今後の制度設計が注目されます。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)













