海外サーバーでも特許侵害? 特許庁、SaaS・IoTなど4類型で判断整理へ

2026年08月20日 11:56

NVIDIA (1)

海外サーバーなどを利用したデジタルサービスが広がるなか、特許庁は国境をまたぐネットワーク関連発明の権利行使について「考え方」の整理を進める(画像はイメージ)

今回のニュースのポイント

特許庁は、海外サーバーなどを利用して国境をまたいで提供されるデジタルサービスについて、日本国内での特許発明の実施と判断され得るケースを分かりやすく整理する方向です。最高裁はドワンゴ対FC2事件で、サーバーが国外にあっても実質的に国内の実施行為と評価され得るとの判断を示しましたが、SaaSやIoT、ロボット制御など他の形態では裁判例の蓄積が乏しく、企業にとって予見可能性が課題となっています。特許庁は典型的なケースを4類型に分け、国内で生じる技術的効果や経済的影響など、判断時に考慮され得るポイントを「考え方」として整理・公表する準備を進めます。

■ サーバーが海外なら日本の特許は関係ない?

 クラウドサービスやWebアプリケーション、SNSなどの普及により、日本国内のユーザーが海外にあるサーバーを介してデジタルサービスを利用する構造は一般的となりました。ここで事業者が直面するのが、日本の特許権は原則として日本国内での実施にのみ及ぶという「属地主義」の問題です。

 例えば、サービスのシステム全体のうち、一部の情報処理を海外サーバー上で実行した場合、形式的には日本国内で特許発明のすべての構成要素が使われていないことになります。このため「サーバーを海外に置けば日本の特許権の効力を回避できるのではないか」という疑問が生じ、実効的な知財保護の観点から課題となっています。

 この問題に対し、動画配信サービスをめぐる「ドワンゴ対FC2事件」の最高裁判決は、サーバーが国外に存在する場合であっても、ネットワークを介した行為全体をみて、実質的に日本国内での実施行為と評価され得るとの判断を示しました。

 しかし、実際のビジネスではシステム構成や処理の分担方法が多種多様です。最高裁判決のパターン以外の具体例については国内裁判例の蓄積が乏しく、企業にとってはどのような構成が侵害になり得るのか予測しにくい状況が続いています。特に専門人材や知財ノウハウが限られる中小企業やスタートアップにとって、事業リスクの把握を難しくする要因となっています。

■ SaaS・IoTなど4類型に整理

 こうした状況を受け、特許庁は8月20日の特許制度小委員会において、国境をまたぐネットワーク関連発明の権利行使に関する「考え方の整理」を作成する方針を示しています。実務家や産業界の意見を踏まえ、被疑侵害行為を大きく4つの類型に分類しています。

 1つ目は、海外サーバーから必要なプログラムなどを送り、国内のスマホやパソコン側で情報処理を行う「国内端末等処理型」で、ドワンゴ対FC2事件がこれに当たります。

 2つ目は「海外サーバー等処理型」です。これには国内利用者が海外サーバーの機能を活用する「機能利用型(SaaSなど)」と、国内のセンサーで集めたデータを海外サーバーへ送信して処理させたり、海外サーバーから国内のロボットなどを制御したりする「国内情報収集・機器制御型(IoT・ロボット制御など)」が含まれます。

 3つ目は、国境をまたぐ無線通信などで使われる周辺技術を利用する「ネットワーク周辺技術利用型」です。そして4つ目が、海外サーバーそのものではなく、データセンターを支える冷却装置や耐震装置、電源といった「サーバー等周辺技術利用型」です。単なるプログラムの処理だけでなく、インフラを支える設備技術まで考慮対象に含まれているのが特徴です。

■ 「海外に置けば対象外」と単純にはいえない

 特許庁が整理しようとしている主な考慮要素としては、①特許発明の技術的な効果が日本国内で生じているか、②特許権者への経済的な影響が国内に及んでいるか、③特許発明の重要な構成要素が国内に存在するか、といった点が挙げられます。

 ただし、資料では「4つの類型に該当することが直ちに特許権の侵害を意味するものではない」と明示しています。これらの類型は侵害・非侵害を機械的に判定するためのものではなく、企業などが判断に際して考慮すべき点を理解しやすくするための「考え方」として公表に向け整理を進める方針です。

 クラウドやSaaS、IoTの普及により、サービスを提供する国、サーバーが置かれる国、利用者がいる国が異なるケースは日常的になりました。サーバーを海外に置いているという理由だけで、日本の特許権の対象外になるとは限りません。特許庁による「考え方」の整理は、国境をまたぐデジタルサービスを展開する企業が、事業開始前に知財リスクを点検する際の一つの手掛かりとなりそうです。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)