水素「2030年」の期待に現実の壁 生産見通し下方修正、それでもコミット済み430万トン

2026年09月11日 07:07

水素

水素の製造・貯蔵・輸送を含むサプライチェーンのイメージ。第8回水素閣僚会議では、2030年に向けた低排出水素の生産見通しが慎重化する一方、コミット済みの生産量は430万トンに達したことが示された(画像はイメージ)

今回のニュースのポイント

千葉県で10日に開催された第8回水素閣僚会議の議長サマリーにおいて、国際エネルギー機関(IEA)による2030年に向けた低排出水素の生産見通しが、需要創出やプロジェクト実施の遅れを反映して従来想定より慎重な水準へ下方修正されたことが示されました。一方で、2030年までに実現をコミット済みの生産量は430万トン(前年比3%増)に達し、稼働中の生産能力も170万トンへ拡大するなど、見通しが慎重化するなかでもコミット済み案件や実績値が積み上がっている状況が数値で提示されました。

本文
 千葉県で10日に開催された第8回水素閣僚会議において、議長サマリーが公表されました。サマリーでは、水素・アンモニア市場の将来像について楽観的なシナリオのみを掲げるのではなく、国際エネルギー機関(IEA)の最新報告書「Global Hydrogen Review 2026」を引用し、2030年に向けた低排出水素の生産見通しが従来想定よりも慎重な水準へ下方修正された事実を明記しました。需要創出やプロジェクト実施の進展が当初の想定よりも遅れていることを反映したものです。

 しかし、見通しの下方修正はプロジェクト全体の停止を意味するものではありません。IEAの試算によれば、大規模プロジェクトの前進によって2030年までに実現をコミット済みの低排出水素の生産量は、前年から3%増加して430万トンに達しています。

 また、水素協議会(Hydrogen Council)の報告書「Global Hydrogen Compass 2026」のデータとして、過去1年間で新たに約65件、累計で約575件のクリーン水素プロジェクトが既にコミット済みであり、これらは約700万トンの水素生産能力に相当すると提示されました。さらに、世界で稼働中の水素生産能力はこの1年間で年間100万トンから170万トンへと拡大しており、来年にはさらに倍増する見込みとされています。

 各国の具体的な取り組みも整理されています。日本では2026年6月時点で、既存燃料との価格差に着目した支援制度などの下、計7件(年間約20万トン-H2規模)の計画が認定され、モビリティ、産業、発電などの分野において、様々なプロジェクトが具体的な実行フェーズへ移行していると整理されました。

 欧州では欧州水素銀行が2026年5月の第3回入札で9件(10年間で累計130万トン-H2規模)を落札させたほか、インドでもグリーン水素製造支援プログラム(SIGHT)により、2026年3月に年間67万トン-NH3規模のグリーンアンモニア供給契約が締結されるなど、需給両面での取り組みが進展しています。

 今回の会議で強調された政策の焦点は、「いかに作るか」という供給面の強化にとどまらず、「需要創出を起点とする」点にあります。議長サマリーは、水素・アンモニアの社会実装を進めるためには、産業、発電、モビリティなどの需要を確立し、生産・輸送・利用が一体となった強靭なサプライチェーンと市場を構築することが重要であると整理しました。

 さらに、今回の会合では水素・アンモニアが持つ「エネルギー安全保障」上の役割に強いスポットが当てられました。中東情勢をはじめとする国際情勢の不安定化や地政学的緊張、資源・燃料供給の不確実性が高まるなか、特定供給源への過度な依存を低減する手段として水素が位置付けられています。水素・アンモニアは再生可能エネルギーだけでなく、化石燃料や原子力など多角的なエネルギー源から製造可能であるため、供給源の多様化に貢献します。加えて、肥料や化学製品、石油精製などの基幹原料でもあることから、食料や産業サプライチェーン全体の強靭化に寄与する点も提示されました。

 2030年に向けた水素の生産期待値は慎重な水準へと修正されました。一方で、コミット済みの案件や稼働中の生産能力は増加しています。水素市場においては今後、計画数だけでなく実際の需要創出と生産量がどこまで立ち上がるかが市場の進展を測る確認点となります。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)