EMEAP中銀の約半数、生成AIで経済分析など研究 AI投資の負債依存も注視

2026年10月01日 08:38

中央銀行イメージ

中央銀行では生成AIを活用した経済のリアルタイム予測やセンチメント指標作成の試験的研究が進む。EMEAPメンバー中銀の約半数がこうした研究プロジェクトを立ち上げている(画像はイメージ)

今回のニュースのポイント

東アジア・オセアニア中央銀行役員会(EMEAP)は、AIが実体経済や金融安定、中央銀行業務に与える影響をまとめたレポートを公表し、日本銀行が9月30日にその抄訳を公表しました。2025年にEMEAPメンバー中銀を対象に実施したサーベイでは、約半数が一般業務でAIを活用しているほか、約半数が生成AIを利用した経済のリアルタイム予測やセンチメント指標作成に関する試験的研究プロジェクトを立ち上げていることが明らかになりました。一方でレポートは、設備投資資金の調達源が内部留保から負債へ徐々に移行している点を、ITセクターにおける「広範なレバレッジサイクルの初期兆候」を示唆する動きとして注視する必要性や、少数のAI・クラウド事業者への依存の高まりがもたらす金融システム上のリスクを指摘しています。

本文
 日本銀行は9月30日、東アジア・オセアニア中央銀行役員会(EMEAP)が取りまとめた報告書「AIに関するEMEAPノート:経済、金融安定、中央銀行業務への含意」の抄訳を公表しました。報告書では、中央銀行自身によるAI活用の現状に加え、AI関連投資が実体経済や企業財務、金融システム全体に及ぼす影響とリスクについて包括的な分析が示されています。

■ 約半数の中銀、生成AIでリアルタイム経済予測など研究

 報告書によると、2025年にEMEAPメンバー中央銀行を対象に実施したサーベイでは、現時点で約半数のメンバーが文章作成・要約、情報収集、プログラムのコーディングといった一般業務にAIを活用しています。さらに一部の中銀では、金融市場のニュース収集や金融機関の融資広告の監視など、専門的な業務にもAIの適用範囲を拡大させています。

 さらに、メンバー中銀の約半数が、生成AIを利用した経済のリアルタイム予測や、テキストデータから新たなセンチメント指標を作成する試験的な研究プロジェクトを立ち上げています。

■ データセンター建設への対内直接投資、EMEAP地域で増加傾向

 実体経済面では、AI関連のデータセンターやクラウド需要の増加が設備投資を押し上げていると分析しています。AI関連投資自体は主要国に集中しているものの、EMEAP地域でもデジタルハブの多様化に伴う恩恵が徐々に表れており、データセンター建設に係る対内直接投資が増加傾向にあります。

 また、AI技術の進歩は高性能半導体や安定的な電力供給システムの生産増加をもたらし、IT製品の輸出がEMEAP地域の輸出成長を押し上げています。一方で報告書は、急速なAI投資拡大の持続可能性や特定セクターへの投資集中に対する懐疑的な見方、データセンター向け投資が経済全体へ波及するかどうかの不確実性についても触れています。

■ AI設備投資、資金源が内部留保から負債へ

 金融安定の観点でEMEAPが注視しているのが、AI関連企業の資金調達構造の変化です。

 AI関連企業の財務レバレッジについて、企業規模により水準は異なるものの、設備投資資金の調達源がこれまでの内部留保から負債へ徐々に移行している点を指摘しました。報告書はこの動きについて、ITセクターにおける「広範なレバレッジサイクルの初期兆候」を示唆するものとして注視が必要であると整理しています。報告書は、当局がAI関連企業の設備投資資金調達ニーズを監視し、過剰なレバレッジの兆候を検出する必要があるとしています。

■ 少数のAI・クラウド事業者への集中、金融システムのリスクに

 民間金融機関におけるAI導入については、顧客分析やリスク管理、不正検出などでの活用が進む一方、市場取引など高リスク分野での導入には慎重姿勢が維持されています。対照的に、ヘッジファンドなどのノンバンク金融仲介(NBFI)は、情報処理や取引判断などにAIを積極的に導入しています。

 EMEAPが重大な問題として挙げているのが、少数のサードパーティAIプロバイダーやクラウドプロバイダーへの依存の高まりです。報告書は、こうした依存の高まりが、システムの単一障害点の問題や、責任に関する法的不確実性、クロスボーダーでのデータ主権リスクを生じさせるとしています。

 報告書は、システミックリスクについて、単一の金融機関やモデルの失敗から生じる可能性は低く、類似した技術や共通のサービスプロバイダーに依存する、相互連関が強まった金融機関同士の相互作用を通じて生じ得ると指摘しています。また、類似のAIプロバイダーやモデルへの依存は、金融安定リスクを増幅させる可能性があるとしています。

■ AIの生産性効果、マクロ統計ではまだ確認されず

 AIとマクロ経済の関係について報告書は、情報処理の効率化などを通じて長期的な生産性を高め、経済成長を促す期待があるとし、とりわけ将来の高齢化による労働力不足が懸念される新興国経済には大きな恩恵をもたらす可能性があると説明しています。

 しかし同時に、「マクロレベルのデータではその効果は確認されていない」と明記しました。AIの恩恵は不均一であり、法域、業界、企業間の格差を広げる可能性もあります。労働市場においても、AI関連職種の需要や賃金が上昇する一方で、高度専門人材の不足やスキルミスマッチ、若年層や低学歴者への雇用面への悪影響といったリスクが列挙されています。

 中央銀行にとってAIは、分析や業務に自ら導入する技術であると同時に、企業債務や金融仲介構造、インフラ集中リスクをもたらす新たな監視対象となっています。その普及はデータセンターなどへの設備投資や、高性能半導体、安定的な電力供給システムの生産にも影響を及ぼす一方、企業の資金調達構造や金融機関のリスク管理、少数のAI・クラウド事業者への依存など、金融安定上の論点も生んでいます。EMEAPはAIを優先分野と位置付け、メンバー間の協力と意見交換を促進し、AI導入による機会とリスクに対応していくことが引き続き重要だとしています。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)