今週の振り返り 588円上昇でリーマンショック前の水準に

2013年03月09日 19:57

 
 来週の展望 調整局面までいかなくても中だるみの週になる可能性あり

 3月8日に発表されたアメリカの雇用統計は、非農業部門雇用者数は23.6万人増で市場予測の16.5万人増を大幅に上回り、失業率は前月を0.2ポイント下回る7.7%で、市場予測を超える改善ぶり。このサプライズは来週の為替、株式市場にいい影響を及ぼしそうだ。

 日本の10~12月の実質GDP改定値は年率0.2%増で、1月の国際収支は3ヵ月連続の3648億円の赤字だったが、2月の景気ウォッチャー調査は現状判断は53.2で好・不況の分かれ目の50を超え、先行判断は57.7に達した。内閣府は景気判断を「景気は持ち直している」と上方修正している。冬場は「元気なのは株価だけ」と言われたりしたが、春の訪れとともに景況感は日々、明るさを増している。

 アベノミクスの「三本の矢」のうち「財政出動」は補正予算案が可決・成立して、「金融緩和」は日銀次期総裁人事が固まってそれぞれ第一ステージをクリアし、今は「成長戦略」につながる個人消費をどう底上げするかに焦点が移っている。安倍首相、麻生大臣、甘利大臣が続けざまに「賃上げ」に言及して経団連など経済団体の首脳にプレッシャーをかけているのは、そのため。甘利大臣はファミリーマート という個別の企業名まで挙げてベアを促し、経営陣はそれに応えていた。安倍首相はベア実施を明言した経営者にわざわざ直接電話してお礼を述べている。ベースアップで個人消費を活発にすればすぐに業績に返ってくるのは内需系銘柄なので、安倍内閣も賃上げ促進で「春の内需系シフト」をバックアップしてくれている。それは、「バブルを再来させるだけ」というアベノミクス批判への反論を封じるのにも有効だと、閣僚たちは思っているだろう。

 内需系シフトと言っても、今週のように不動産や倉庫、私鉄、百貨店のような含み資産銘柄ばかり株価が上がっていては、「不動産バブルの再来」「資産に偏ったインフレ」を連想させてしまいバランスを欠く。小売業、サービス業、食品などの株がひろく買われ、先行する輸出関連銘柄の株価を揃って追いかけるような状況が望ましい。そうなる兆候がつかめそうな業種は、小売業ならスーパーや専門店チェーン、サービス業なら外食やレジャー関連あたりだろう。「デフレの象徴」と言われた「ユニクロ」のファーストリテイリング や「100円マック」の日本マクドナルドHD や牛丼「すき家」のゼンショーHD も、デフレから脱却する筋書きがはっきりすれば、今までとは別の経営戦略を打ち出してくるはずで、その動きを見逃さないようにしたい。

 食品、小売、外食、レジャー関連などは、株主優待の権利取りのターゲットでもある。3月期決算の銘柄で3月末日が権利確定日の場合、権利付き最終日は26日の火曜日なのでまだ2週間以上あるが、マネー雑誌や女性誌で株主優待特集が組まれたりして、徐々に関心が盛り上がってくる時期。株価の上昇で「優待利回り」が下がっているとはいえ、あなどれない買い勢力だ。

 一方、3月期決算企業の決算対策売りは、20日が決算日の特金(特定金銭信託)の売買最終日が14日の木曜日なので、この日までは気が抜けない。最終黒字見通し達成に向けて資産処分を進めるソニー ばかり注目されているが、好業績の企業でも関係会社の再編成などで保有株を売ることはある。株主異動、資本異動のニュースが多くなるのも3月のこの時期なので、突発的に「降って湧いた話」で株価が動く恐れがある。

 そのように個別株レベルでは、まるで春の空のようにデリケートな一面もあるが、日経平均で言えば来週、特に大きなイベントも入っていないので比較的平穏に過ぎそうだ。

 国内の経済指標は、11日に1月の機械受注、2月の工作機械受注、2月のマネーストック、12日に1月の第三次産業活動指数、2月の国内企業物価指数、1~3月期大企業業況判断指数(BSI)、2月の消費者態度指数、14日に1月の設備稼働率指数、1月の鉱工業生産確報値、首都圏・近畿圏マンション市場動向が、それぞれ発表される。参議院議院運営委員会での日銀総裁・副総裁内定者への「所信聴取」は、11日は黒田氏、12日は岩田氏、中曽氏に対して行われる。

 海外では、11日にスペインの2月の財政収支、12日にアメリカの2月の財政収支、ドイツの消費者物価指数(CPI)、13日に1月の小売売上高、2月の輸入物価指数、1月の企業在庫、ユーロ圏の1月の鉱工業生産指数、フランスの消費者物価指数(CPI)、14日にアメリカの10~12月期の経常収支、2月の生産者物価指数(PPI)、15日にアメリカの2月の消費者物価指数、2月の鉱工業生産指数、2月の設備稼働率、NY連銀製造業景気指数、3月のミシガン大学消費者信頼感指数、ユーロ圏の2月の消費者物価指数改定値、労働コスト、雇用者数が、それぞれ発表される。13日にはイタリア国債の入札があり、14~15日はEU首脳会議が開かれる。その時までにはイタリアの政局混乱も収拾の見通しがついているだろうか。

 ひとつ問題なのは今週、日経平均株価が600円近くも大きく上昇してしまったこと。アメリカの雇用統計のサプライズでドル円96円台、97円台へ円安が進行して月曜日は続伸しても、それが何日も続くかどうか。

 昨年11月以来、「はっきりした調整局面もなく上がる一方」と言われ続けて4ヵ月もたち、日経平均が大きく下げる局面があっても1日か1日半で終わるので、1週間の星取が1勝4敗になるような週もなかった。天気にたとえれば、豪雨や台風が来てもサッと通過してあとは晴れる週ばかりで、梅雨時のように小雨が降ったりやんだりで太陽が拝めないような週がなかった。来週がその週になるとは断定はできないが、今週末の達成感のある高値圏とアメリカの雇用統計のサプライズを引き継いでも、特にイベントも控えていないだけに、中だるみで「今日は手がかり難で下げた」「勢いが続かなかった」「断続的な売りに抗しきれず結局、続落した」が続く可能性はある。

 言ってみればそれは、為替レートに敏感で跳ねやすい輸出関連主体の相場から、安定感がありジワジワと切り上げていく内需系主体の相場へ、ステージが移り変わっていく端境期の現象ではないか。上値追いは期待せず、かといってショッキングな下落もないが、少しずつズルズル下げる局面ならあるということで、日経平均のレンジは11800~12500円とみる。(編集担当:寺尾淳)