トヨタ自動車、今後のHVを含む省燃費車のため、SiCによる高効率パワー半導体開発を推進する

2014年05月23日 09:07

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写真左が現行のトヨタ・ハイブリッド用のモーター駆動力を制御するパワーコントロールユニット(PCU)で、今後「SiCパワー半導体」を開発・採用して、写真右ほどのコンパクト(従来比容積20%)なPCUとすることが目標だ

 1年以内に走行実験を開始。将来的にハイブリッド車の燃費10%向上を目指すと発表したトヨタ自動車は、デンソー、豊田中央研究所と共同で、新しい素材であるSiC(シリコンカーバイト)によるパワー半導体を独自に開発した。このSiCパワー半導体は、ハイブリッド車(HV)などのモーター駆動力を制御するパワーコントロールユニット(PCU)に採用する予定で、今後1年以内に公道での走行実験を開始するという。

 トヨタの発表では、将来的にSiCパワー半導体を使うことで、現在主流のシリコンパワー半導体を使ったPCU車に比べ、燃費を10%以上向上させ、PCUの容積は5分の1の小型化を目指すというのだ。

 SiCパワー半導体では、京都の半導体メーカーであるロームや三菱電機が先行開発・実用化を図ってきたが、トヨタはグループ自主開発に拘ったというわけだ。

 PCUは、走行時にはバッテリーの電力をモーターに供給することで車速を制御し、減速時には回生した電力をニッケル水素電池などのバッテリーやキャパシタに充電する。HVや燃料電池車などの電力利用において重要な役割を担っている制御システムだ。

 一方、PCUは、HVの電力損失の約1/4を占めているが、その大半がパワー半導体であるため、HVの車両全体の電力損失の約20%はパワー半導体による損失だといわれる。つまり、パワー半導体の高効率化は燃費向上のキーテクノロジーの重要な部分を占めているのである。トヨタでは、1997年の初代プリウス発売時よりパワー半導体の自社開発に取り組み、HVの燃費向上に努めてきた経緯がある。

 SiCはシリコンよりも高効率化が可能な半導体素材であり、トヨタグループでは、1980年代から豊田中研、デンソーが基礎研究をはじめ、2007年からはトヨタも参加し実用化に向けた技術開発を共同で進めてきた。トヨタは、このほど3社で共同開発したSiCパワー半導体(ダイオードとトランジスタ)を採用したPCUをHVの試作車に搭載し、テストコースで行った走行実験において、5%を超える燃費向上を確認したとレポートしている。

 2013年12月には、電子制御装置や半導体などの研究開発及び生産の拠点である広瀬工場に、SiC専用の半導体開発のためのクリーンルームを整備した。今後、さらに高効率化を進め、将来的には10%の大幅な燃費向上を目指す。

 また、SiCパワー半導体には電流を流す際の抵抗や電流を流したり止めたりするオン&オフ時(スイッチング)の損失が小さいという特徴があり、高周波化しても効率的に電流を流すことが可能だ。この特性を十分に引き出すことにより、PCUの体積の約40%を占めるコイル&コンデンサの小型化が可能で、将来的にPCUの容積で現行型比20%(5分の1)を目指す。

 つまり、新しい規格のPCUを側面から支援するのがSiCパワー半導体で、小さく軽く、しかも制御に優れるPCUにはSiCパワー半導体が不可欠とも言える。

 トヨタでは、HVなど電動車両の燃費向上において、エンジンや空力性能などの改善はもとより、パワー半導体の高効率化も重要技術として位置づけており、今後は、現在参加している国家プロジェクトでの成果を取り入れながら、SiCパワー半導体の早期実用化に向けて開発を強化していくとしている。(編集担当:吉田恒)