文部科学省は、2018年度から大学生の奨学金制度に「所得連動返還型」を導入する方針だ。所得連動返還型はイギリスやオーストラリア、アメリカで採用されており、卒業後の年収に応じて返還月額が変動する。滞納を減らし、回収率を上げることが目的だ。
文部科学省は、2018年度から大学生の奨学金制度に「所得連動返還型」を導入する方針を固めた。所得連動返還型はイギリスやオーストラリア、アメリカで採用されている制度で、卒業後の年収に応じて返還月額が変動する。景気や年収の増減に応じて返還額が決定するため、低所得の者ほど負担が少なく、回収率を上げることができるという。
イギリスでは所得の0~3.6%を返済額とし、所得から源泉徴収するという方法をとっている。また所得が約357万円以下の場合には返済に猶予を設けており、30年間または65歳をめどに返済を免除し、残額を帳消しにしている。
近年、大学進学率の高まりと不況の影響により、奨学金制度を利用する学生は増加傾向にある。しかし卒業後、非正規雇用などの職に就く者は、不安定な収入から奨学金を返還せねばならず、滞納問題も深刻化している。日本学生支援機構には日々3,000件もの相談が殺到している状況で、奨学金返還の対策は急務だ。日本学生支援機構によると、貸与型奨学金の利用学生は今年度で約140万人。貸与額は月12万?3万円で、年平均にすると約80万円となる。現行制度では年収300万円以下の場合に返還猶予制度が適応されるが、それ以外の者に対しては特に措置はなく、返還を滞らせた場合には5%の延滞金が課せられてしまう。12年度末での延滞額は、実に925億円にものぼる。
文部科学省は16年に開始予定の「マイナンバー制度」を活用して所得連動返還型奨学金制度を導入するとしている。マイナンバー制度とは、すべての国民に社会保障と税の共通番号を割り当て、個人情報を正確に把握するというものだ。所得や資産の状況が明確になるため、税制度の透明性が高まり効率的に処理することができる。
しかしながら所得連動返還型にはデメリットも指摘されている。諸外国で設定されている20~30年程度の返還期間を過ぎた場合に残額が帳消しとなる制度では、返還者のモラルに頼る部分が生じ、また高年齢になるほど収入が増加することを考えた場合には、返還能力があるにも関わらず残債務を免除するということになってしまう。導入までには慎重な議論が必要だろう。(編集担当:久保田雄城)