燃料電池車(FCV/Fuel Cell Vehicle)の記事を掲載するたびにネガティブな書き込みや反応が必ずと言って良いほど起こる。記事に寄せられるネガな反応の多くは、「700万円もする高額なクルマが普及するわけがない。一部の金持ちが“これ見よがし”に乗るだけ。普通の人ではローンさえ組めない」「若い世代の年収以上のクルマ(FCV)が売れるなんて思いますか??地方ではガソリンスタンドもどんどん減っている。水素や電気スタンドが田舎で普及すると思いますか??バカも休み休みに言いなさい」というようなパターンだ。
このような反応は、1995年にハイブリッド車(HV)プリウスのプロトタイプをトヨタが発表した時と同じパターンだ。試作段階でトヨタは発売する際には「価格はおおむね300万円を切りたい」とした報道を受けて、「カローラクラスのクルマに300万円払うなんて信じられない(当時のカローラの中核車種は150万円ほどだった)」という意見が圧倒的な多数派だった。ところが、まだ高額だったクルマを購入した、それなりの数のトレンドセッターが存在したから、量産効果で価格は下がっていった。そして、現在のハイブリッド車ブームだって起きた。
だから、FCVも「一部の金持ちがこれ見よがしに乗る」ことから始まって一向に構わない。そういう人たちが居るからトレンドが動く。トヨタも500万円程度の初期費用で購入でき、水素ステーションなどのインフラが整備された地域から販売開始するとしている。
ところで、昨年(2013年)4月から、ホンダが北九州市と協働で実証実験をスタートさせたFCV「ホンダFCXクラリティ」が成果を上げはじめている。
この実証実験は、FCXクラリティに積載した可搬型インバータボックスから、公共施設である「いのちのたび博物館」の10kW蓄電装置へ非常用電力を供給。これにより、FCXクラリティの緊急時における移動可能な発電設備としての実用性に加え、災害時に避難所となる学校などの公共施設への効果検証を行なってきた。
また、昨年9月から経済産業省のスマートコミュニティ実証事業の一環として、北九州市環境ミュージアムの敷地内にある「北九州エコハウス」にFCXクラリティから電力を供給し、電力ピークカットに貢献する電力平準化にFCVを効果的に使う新たな方法「V2H(ビークルトゥホーム/Vehicle to Home)」の実証実験を行なってきた。
また、地域と連携したCEMS(Community Energy Management System)ネットワークに電力を供給し、北九州市八幡東区東田地区の地域節電所で、地域全体のエネルギーマネジメントの効果検証も行なってきた。これら実験で、FCXクラリティに水素を満タンに充填した状態で、「北九州エコハウス」の6日分の電気を供給できることが実証できた。
ホンダでは、このFCXクラリティを実証実験車としてさまざまな状況で活用することで、実際の都市環境下でのCO2削減効果を確認。同時に、緊急時における移動可能な発電設備としての実用性も検証できたという。
ホンダは、かねてより化石燃料の代替、排出ガスの削減、地球温暖化への影響の低減という観点から、燃料電池を将来のクリーンパワーととらえ、積極的に開発してきた。今回、一年を通じて「クルマから家庭への外部給電/V2H」という新しい実証実験の成果を受けて、来年にも発売するホンダ製燃料電池車には、外部給電装置を標準装備することになりそうだ。
もちろん、冒頭で記したようにFCVの普及にはネガティブな意見も多い。が、HVやPHVも普及には10年以上を要した。インフラなどの要素設備も必要なFCV普及にはさらに時間が必要かもしれない。が、この高いハードルは必ず超えなければ、未来のクリーンパワーは手に入らない。
そのためには「新しモノ好きで、“これ見よがしに乗る人”たち」の投資が必要なのだ。(編集担当:吉田恒)