だが、為替も株価もあまりにもハイペースすぎる。投資家心理はあまりにもハイテンションすぎる。ここまでくればユーフォリア(陶酔感)やファナティック(熱狂)を通り越してインサニティ(狂気の沙汰)に近くなる。かつて「狂気の劇作家」と呼ばれたアントナン・アルトーは「生とは、問いを焼き尽くすことだ」と言ったが、前週はまさに、イベントを次々と通過しては問いを焼き尽くした週だった。焼き尽くした後に残るものは焼け殻と灰。そして今週は日本株がボロボロ下げていく「残酷演劇」を見せられるのだろうか? ポイントはそこにある。
達成感は、残酷な一面を持っている。大きな目標を達成した後、突然やってくる虚脱感。それまでの目標が消えるとモチベーションが下がり、次の目標が見つからずにやる気が出なくなる。そんな心理状況は逆境にもろい。それをどうしても克服できなくて、新聞に「○○○○氏の栄光と悲惨」という見出しがつけられそうな不幸な後半生を送った人は、決してまれではない。
かつて、明治時代の日本人は富国強兵政策のもと、「世界の一等国になる」という目標達成に向けて一丸となって邁進し、約100年前の第一次世界大戦後のベルサイユ講和会議でそれを果たした。だが、その達成感に包まれた後の大正時代の日本人をおおっていた気分は濃淡の差はあれ、「日本はこれからどうなる?」「自分はどうすればいい?」という将来への「漠然とした不安」だった。「時代の気分」に人一倍敏感な職業である文学者の芥川龍之介は、大正が終わりを告げた約7ヵ月後、「ぼんやりとした不安」という謎めいた言葉を遺書に残して自死した。
前週、さまざまなものを一気に達成した日本株は、そのような達成感がはらむ残酷な側面との折り合いをつけねばならない時期にさしかかっていて、今週はその入口にあたる。「逆境にもろくなっている」と危機感を持ち、気を引き締めなければならない。
しかし、日経平均の19日終値のテクニカルポジションはあまりにも高すぎて、逆境は今、手を伸ばせば届く範囲にある。たとえばボリンジャーバンド。25日移動平均線+2σ(第2標準偏差)の16142円から179円も高い位置にあり、統計的に言えば確率5%のゾーン。いつまでもいられると思うな+2σオーバーゾーンだ。さらにもし57円上昇して25日線+3σ(第3標準偏差)をオーバーしたら確率0.3%のゾーンに入る。今年8月8日の終値で正反対の-3σに位置したが、翌営業日11日の352円の大幅高により1営業日限りで解消している。一方、16、17日に小幅でも続落したため12日は131.4だった騰落レシオは119.1に低下し、サイコロジカルライン(12日)は8。25日移動平均乖離率も4.16%で買われすぎ目安の5%はまだ届いていない。しかしストキャスティクスの9日Fastは88.28にはね上がり、買われすぎ警戒信号が点滅している。
移動平均線は5日線が16027円、25日線が15669円、75日線が15401円、200日線が15092円。前週ねじれた日足一目均衡表の「雲」は15200~15256円の56円幅まで薄くなっていて、今週は週前半にもう一度ねじれる。遠く離れていても「雲のねじれはダマシが多くなり不安定になる」と言われているので、これも気になる。
今週は、前週に買われすぎたために上値を追える範囲はごく限られそうだ。せいぜい16378円のボリンジャーバンドの25日線+3σが関の山とみる。そして下値は5日線の16027円や16000円の大台は防衛線として心もとなく、15669円の25日線も想定しておいたほうがいいだろう。19日の上がり方があまりにも派手だったので、その反動が怖い。16000円を割り込んでしばらく値固めしてから出直しても、全然悪くない。
ということで、今週の日経平均終値の変動レンジは15650~16400円とみる。例年、9月下旬の日経平均のパフォーマンスは悪く、20日(休場の場合はその前営業日)と月末の最終営業日の間の騰落は2003~2013年の11年間で3勝8敗。しかもリーマンショックが起きた2008年からは6連敗中だ。9月トータルでも1994~2013年の20年間の騰落は8勝12敗と分が悪い。さらに19日にあったNY市場の先物、オプション清算集中日の翌週のNYダウは過去10年で3勝7敗というデータや、新型iPhoneの日本発売日から2週間後までの日経平均の騰落は「4」発売以来1勝3敗で、「5」では連敗というデータもある。為替のドルもユーロも日経平均以上に「買われすぎ」で、為替から先に崩れそうな気配もあり。最大の警戒対象は休日の23日に出る中国のHSBCのPMIだろう。達成感にいつまでも浮かれるわけにはいかない。(編集担当:寺尾淳)