障がい者雇用は「採用」から「定着」へ 相談増が映す合理的配慮の新段階

2026年06月19日 18:02

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障がい者雇用は採用人数の拡大から、一人ひとりが能力を発揮し、働き続けられる職場づくりへと新たな段階に入っています。合理的配慮や対話を通じて、多様な人材が活躍できる組織運営が企業の競争力として問われ始めています。(画像はイメージ)

今回のニュースのポイント

厚生労働省が本日公表した令和7年度の実績によると、ハローワークへ寄せられた障がい者差別および合理的配慮に関する相談は631件と、前年度の438件から44.1%増加し、そのうち509件が合理的配慮に関する相談でした。一方で、法違反が確認されたうえでのハローワークによる助言は4件、指導や勧告は0件にとどまっており、相談件数の増加は違反の急増というより「働き続けるための環境調整」をめぐる悩みや対話が表面化してきた段階と見ることができます。障がい者雇用は採用人数を増やす段階から、職場で個々の労働者が能力を発揮し、働き続けられる環境をいかに構築するかという質的な課題へと移りつつあります。

本文
 障害者の雇用の促進等に関する法律(障がい者雇用促進法)に基づき、すべての事業主には障がい者であることを理由とした差別的取扱いの禁止や、合理的配慮の提供義務が課せられています。公表された過去5か年度の推移を見ると、ハローワークへの相談件数は令和3年度の244件から、直近の令和7年度には631件へと約2.6倍に急増しています。相談者の9割超を占めるのは障がい者本人(573件)ですが、法定雇用率の引き上げなどを背景に事業主からの相談も44件と前年度の32件から増加傾向にあります。

 相談後の状況は「相談のみで終了」(49.0%)や、法違反は確認されずハローワークが確認後に助言等を実施したケース(42.9%)が全体の9割以上を占めています。実際に働き始めてからの職場環境や業務設計に悩む声に対し、現場での相互理解や個別の環境調整を模索する試行錯誤の過程が、相談件数の大幅な増加という形で表面化していると言えます。

 相談内容の具体的な内訳を見ると、障がい者雇用の焦点が「雇用の有無」から「職場運営」という質的な議論へと移りつつある実態が浮かび上がります。障がい者差別に関する相談(122件)では「募集・採用時」(16.7%)や「退職の勧奨」(15.2%)、「解雇」(13.0%)に関するものが中心です。一方で、相談の大半を占める合理的配慮に関する相談(509件)では、「上司・同僚の障害理解に関するもの」(27.3%)が最も多く、次いで「相談体制の整備、コミュニケーションに関するもの」(16.0%)、「就業場所・職場環境に関するもの」(14.1%)、「業務内容・業務量に関するもの」(12.7%)と続いています。指示方法やコミュニケーションのあり方、業務量など現場レベルでの具体的な運用こそが合理的配慮の成否を左右していることを示しており、企業には個々の状況に応じた柔軟な調整力が求められています。

 人的資本への投資や多様性(ダイバーシティ)の確保が重要な経営課題となる現代において、障がい者雇用促進法は「均等な機会」と「能力発揮の支障改善」を求めており、単に雇用率を満たすだけではなく、能力を生かせる職場設計を義務づけています。法的紛争まで発展した案件は、労働局長による紛争解決の援助申立が2件、障害者雇用調停会議による調停申請が15件と全体から見ればごく一部にとどまります。

 人的資本経営の観点から見れば、障がい者雇用は「採用人数を増やす」こと以上に、相談や課題が起きたときに対話を通じて条件を見直し、働き続けられるようにする組織運営そのものが、企業の持続的な競争力や企業価値につながる時代に突入したと言えます。さらに、これらの合理的配慮を通じて企業が蓄積したノウハウは、障害者にとどまらず、高齢者や病気を抱えながら働く労働者など、広い意味での多様な人材が活躍できる組織基盤の構築へも波及していく可能性を秘めています。

 ハローワークによる強制力のある是正措置が、指導0件、都道府県労働局長による勧告も0件ときわめて少数である事実は、相談の増加が必ずしも重大な法違反の急増を意味しないことを示しています。むしろ、制度の認知が進んだことで当事者が声を上げやすくなり、企業側も第三者の助言を仰ぎながら調整を試みるという“対話の増加”としての側面が強く、相談窓口が、職場環境の調整や合理的配慮を進める実務的な対話の場として機能し始めている現代の潮流を映し出しています。

 労働力人口が減少するこれからの日本においては、多様な人材が能力を有効に発揮し、長く働き続けられる環境づくりは社会的配慮にとどまらず、企業の持続的成長を支えるきわめて重要な人的資本戦略そのものです。企業に問われる競争力もまた、目先の「数」の充足や単なる「採用力」ではなく、「多様な人材が定着し活躍できる組織運営力」へと確実に変わり始めているのです。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)