経営者は未来をどこまで読めるのか 財務総研研究が示した「不確実性」の実像

2026年06月24日 18:53

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不確実性が高まる経済環境の中でも、企業は将来を見通しながら意思決定を続けている。財務総研の研究は、先行きが見通しにくい時代における企業行動の実態を示している。

今回のニュースのポイント

財務総合政策研究所は24日、企業景況感調査における「先行きが分からない」という回答に着目し、企業が直面する不確実性を分析した研究レポートを公表しました。将来予測が困難な局面では不確実性を感じる企業が増える一方、すべての企業が判断停止に陥るわけではなく、一定割合の企業は見通しを立てながら経営判断を続けている実態が示されています。不確実性が常態化する現代経済において、企業はどのように意思決定しているのでしょうか。今回の研究成果を入り口に、これからの時代における企業経営のあり方を読み解きます。

本文
 不確実性が常態化する現代のグローバル経済において、企業経営者が先行きの見通しを完全に言い当てることは、容易ではありません。未知のパンデミックや激化する地政学的リスク、あるいは技術革新にともなう産業構造の変化など、企業を取り巻く環境は予測困難な環境に置かれています。こうしたなか、財務省の財務総合政策研究所(財務総研)が公表した最新の研究レポート「法人企業景気予測調査を用いたナイト流不確実性に直面する可能性のある企業の割合の推計」は、企業が直面する「先行き不透明感」の実態を分析し、注目を集めています。

 経済学において、将来の不透明感は「リスク」と「不確実性(ナイト流不確実性)」に明確に大別されます。リスクとは、過去のデータなどから将来起きるイベントの確率がある程度推定できる状態を指します。これに対し、ナイト流不確実性とは、何が起きるか、それがどの程度の確率で起きるかさえ全く計算できない、主観確率の推定すら不可能な状態を意味します。財務総研の鈴木孝介客員研究員と櫻井智章客員研究員による今回の共同研究では、内閣府と財務省が四半期ごとに実施している「法人企業景気予測調査」の中で、自社の景況感の先行きについて「不明」と回答した企業に着目しました。この「不明」という選択肢を選ぶ企業こそ、ナイト流不確実性に直面している存在であると考えられるためです。

 レポートでは、時間の経過にともなう情報の拡散過程を描写する「一般化成長曲線」という数理モデルを用い、企業が将来のどの程度先まで「不明」を抱え得るのか、その潜在的な上限値(収斂値)の推計を試みています。景気後退局面や外部ショックの発生時には先行きの不透明感を示す「不明」の割合は一時的に跳ね上がりますが、分析から得られた結果はきわめて興味深いものでした。見通し期間を無限にまで引き延ばした場合、潜在的にナイト流不確実性に直面し得る企業の上限割合は、経済状況や時点によらず、ほぼ一定の範囲に収束することが示唆されたのです。

 その具体的な推計値(修正モデル3による収斂値)は、製造業大企業で79%、製造業中堅企業で64%、製造業中小企業で81%、非製造業大企業で54%、非製造業中堅企業で49%、非製造業中小企業で58%となりました。この結果は、どれほど予測が困難な環境に陥ったとしても、すべての企業が将来見通しの形成を放棄するわけではない可能性を示唆しています。製造業では少なくとも2~4割程度、非製造業にいたっては4~5割程度の企業が、状況に関わらず自らの主観的な見通し(ベイズ流の見通し)を持ち、経営判断を継続している可能性が示されました。同じ経済環境に直面しながらも、業種や規模、企業の体質によって、見通し形成のあり方に明確な「異質性」が存在しているのです。

 今回の研究結果は、現代経済において企業競争力を考える上で興味深い示唆を与えています。将来予測が困難な環境下でも、一定の企業は見通し形成を続けながら意思決定を行っている可能性が示されたためです。不透明な環境下において判断を留保する傾向(リアルオプション効果)が働く中でも、具体的にどのように意思決定を継続するかは、今後の企業経営における重要な実務課題と言えます。

 また、この不確実性の実態を数量的に把握することは、一国の産業政策や中央銀行の金融政策を立案するうえでも重要なテーマです。高い不確実性に直面した企業では、金利などの政策手段に対する感応度が低下し、一律の経済刺激策だけでは設備投資や雇用の再開へ動きにくくなる性質が指摘されているためです。政策当局にとっても、企業が直面する不確実性の大きさや、その分布を把握することの重要性を改めて示す結果と言えそうです。

 今回の研究は、未来を正確に予測できる企業がどれだけ存在するかを示したものではありません。しかし、将来が見通しにくい環境下でも、一定割合の企業は見通し形成を続けながら意思決定を行っている可能性を示唆しています。不確実性が常態化する時代において、企業経営に求められるのは予測の正確さだけではなく、不透明な環境の中でも判断を継続できる組織のあり方なのかもしれません。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)