全固体電池の「職人技」をAIへ 日立ハイテク、正極材コーティング最適化

2026年08月20日 16:23

日立

AIを活用した全固体電池向け正極材のコーティング条件探索をイメージした画像。日立ハイテクとパウレックは、製造・計測データを活用して最適な条件を効率的に探索する手法を実証した(画像はイメージ)

今回のニュースのポイント

日立ハイテクは20日、パウレックと共同で、全固体電池の正極活物質に施すコーティングについて、AIを活用して最適な条件を探索する実証を完了したと発表しました。従来は熟練技術者の専門知識や経験を頼りに実験・試作を繰り返していた工程について、製造装置の運転データや計測データをAIで解析。高品質で再現性の高いコーティング条件の最適解を導き出しました。2030年ごろに見込む全固体電池市場の本格化を見据え、事業化を目指します。

本文
 日立ハイテクは20日、粉体処理装置などを手掛けるパウレックと共同で、全固体電池向け正極活物質のコーティング条件をAIで効率的に探索する実証を完了したと発表しました。両社はパウレックの持つコーティング技術や装置運用データと、日立ハイテクの解析・分析技術、AI・インフォマティクス技術を組み合わせた「フィジカルAI」を活用。実証では高品質かつ再現性の高いコーティング条件の最適解を導き出しました。これまで熟練技術者の経験や専門知識に依存していた条件探索をデータ駆動で効率化し、全固体電池の開発や量産立ち上げ期間の短縮につなげる手法であることを確認しました。全固体電池の製造では、材料特性や装置条件など多数の要素を組み合わせる必要があり、条件設定には熟練者の経験やノウハウが求められてきました。

 全固体電池は、従来のリチウムイオン電池などで使われる液体電解質に代わり、不燃性の固体電解質を使用する次世代電池です。安全性向上に加え、高電圧化やエネルギー密度向上、長寿命化が見込まれており、電気自動車(EV)の航続距離延長や電池パックの小型・軽量化などが期待されています。一方で、充放電を繰り返すと正極活物質と固体電解質の界面に抵抗体が発生し、エネルギー出力低下を招く課題がありました。その対策として、リチウム伝導性の酸化物被膜を正極活物質にコーティングし、抵抗体の発生を防ぐ手法が取られます。しかし、粒子に対して均一性・被覆率・膜厚を制御した最適条件を導き出すには、材料組成や固体電解質との相性、装置条件など複数要素を考慮する必要があり、条件探索や量産へのスケールアップに多くの時間と工数を要していました。

 今回の実証は、コーティング状態の「測定・評価」と「AIによる最適条件の探索」の2段階で実施されました。まず、パウレックの装置で作製したサンプルに対し、日立ハイテクの蛍光X線分析(XRF)や走査電子顕微鏡(SEM)を活用して評価を行いました。煩雑な前処理が不要なXRFやSEMを活用することで評価工程を効率化し、膜厚や被覆均一性、界面特性などを定量的に評価する手法を開発。プロセス条件と材料特性・電池性能との因果関係を明確化しました。次に、装置の運転データや過去の実績データ、評価結果を1つのデータテーブルに統合し、日立ハイテクのデジタルソリューション「PROACCELA」によるプロセス・インフォマティクス(PI)技術を適用しました。これにより最適条件を決定し、開発や生産立ち上げ期間の短縮につながることを確認しました。AIが電池そのものを設計するのではなく、実際の製造・計測データを基に、熟練者が担ってきた「条件出し」を効率化する仕組みです。

 日立ハイテクとパウレックは、2030年ごろに見込まれる全固体電池市場の本格化を見据え、今回の最適コーティングプロセスの提案を、日立ハイテクの次世代ソリューション群「HMAX Industry」のラインアップとして事業化を目指します。さらに、電池材料におけるさまざまなコーティング対象・材料系へ適用範囲を広げるほか、将来的には高機能材料、医薬品、化学など幅広い分野への展開も検討する方針です。

 全固体電池の実用化には材料開発だけでなく、品質を安定させながら量産する製造プロセスの確立が欠かせません。日立ハイテクとパウレックは、製造装置から得られるデータと計測・分析技術、AIを組み合わせることで、熟練者の経験に依存してきた条件探索の効率化を目指します。両社は2030年ごろの全固体電池市場の本格化を見据えて事業化を進め、将来的には高機能材料や医薬品、化学分野への展開も検討しています。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)