法律は「社会のプログラム」 デジタル庁、法令の機械可読化とAI活用推進

2026年08月20日 16:31

国会議事堂3

国会議事堂。デジタル庁は、法令を機械可読な構造化データとして整備し、AIを活用した法制事務支援など「法令×デジタル」の取り組みを進めている

今回のニュースのポイント

デジタル庁が進める「法令×デジタル」の取り組みでは、法令を「社会のルールを記述するプログラム」と捉え、法制事務のデジタル化や法令データの利活用を進めています。現在の法令作成ではWordや一太郎などの一般的なワープロソフトが使われ、条文管理や転記、体裁編集には手作業や読み合わせが残ります。一方、デジタル庁は機械可読性の高い法令XMLを中心とした業務への移行を進め、法令APIの高度化やAIを利用した法制事務支援も検証しています。将来的には法令を機械実行可能な形で表現する「Rules as Code」や、法令の効果を仮想空間で分析する「制度デジタルツイン」も視野に入れています。

■ 法律は「社会のルールを記述するプログラム」

 デジタル庁は、法令とコンピュータプログラムの構造に深い共通点があるとして、法制分野のデジタル化を推進しています。例えば住民基本台帳法第22条における「転入届」の規定では、「転入をした者が14日以内に氏名や住所などを市町村長へ届け出なければならない」と定めています。これをプログラム風に表現すると、「転入」というイベントの発生に対し、対象データ、提出先、14日以内という期限を設定する処理となります。法令もプログラムも、「一定の条件に対してどのようなルールや手順を適用するかを厳密に記述するもの」という役割を担っています。デジタル庁は法令を「社会のルールを記述するプログラム」と表現し、法令作成から公開、利活用に至るプロセス全体をデジタル技術で変革する取り組みを進めています。

■ 法令を作る現場には「Word・一太郎・目視」が残る

 ソフトウェア開発の現場では専用エディタや静的チェックツール、高度なバージョン管理システムが普及しています。一方、行政の法制事務では、法令案や新旧対照表などの編集に「Word」や「一太郎」といった一般的なワープロソフトが用いられており、条文管理や転記、体裁編集を手作業や目視確認、読み合わせに頼る課題が残されています。デジタル庁はこれを、書類中心のワープロファイルやPDFに頼るワークフローから、機械可読性の高い「法令XML」などの構造化データを共通言語とするデータ中心のワークフローへと転換させようとしています。すでに法令編集・管理機能や官報入稿連携、条文の整合性チェック、引用関係の識別機能などの開発を進めています。

■ 9354法令を提供、AIとの連携も

 国民や企業へのデータ提供の基盤となる「e-Gov法令検索」には、2025年4月1日時点で法律2143本、政令2383本、府省令4313本など合計9354本(憲法や勅令、規則を含む)の法令が搭載されています。2024年度のアクセス数は約2億4,000万回に達しました。さらに2025年3月からは「法令API Version2」の提供を開始し、指定時点の過去法令の取得や改正履歴、JSON形式でのデータ取得などが可能になりました。デジタル庁は、こうした公式法令データと生成AIを組み合わせた法制事務支援についても実験・検証を進めています。資料では2023年11月時点の実験例として、GPT-4を使った条文からのフローチャート生成や、自然言語の質問に対応する法令APIの呼び出し、法案概要からの条文案作成などを紹介しています。ただしAIの出力について、デジタル庁は「もっともらしい誤り」が含まれる可能性を指摘しており、必要項目の欠落や異なる条項の参照といった課題も確認されています。そのため現段階では、AIによる法制事務の自動化ではなく、人間の法制事務を補助・支援する位置付けとして整理されています。

■ 将来は法律そのものを「実行」する?

 デジタル庁が提示する「デジタル法制ロードマップ」では、法令データの公開環境整備(法令ベースレジストリ)から始まり、コネクテッドデータ、法令オントロジ、法令静的解析を経て、最終的に「制度デジタルツイン」に至る段階的な高度化を描いています。その過程で注目されるのが、法令などのルールを機械実行可能な形式で記述する「Rules as Code(RaC)」という概念です。ニュージーランド、フランス、カナダなどで研究や実証が進んでおり、主に税や給付など数値化しやすい分野でシミュレーションやシステム実装が行われています。ロードマップの最終段階とされる「制度デジタルツイン」では、法令の意味内容を含めて仮想空間上でシミュレーションを行うことで、法令の効果を自動分析し、柔軟かつ効果的、公正な制度設計に役立てる将来像を描いています。

 法令は社会の権利や義務、行政手続きなどを定める一方、その作成や管理には手作業も多く残っています。デジタル庁は、法令を機械可読な構造化データとして整備し、作成から公開、民間での利活用までをデータ中心へ転換する取り組みを進めています。AIによる法制事務支援には正確性などの課題が残りますが、将来的には法令を機械実行可能な形で表現し、制度変更の効果をシミュレーションする構想も示されています。「社会のルールを記述するプログラム」として、法令の作り方そのものが変わる可能性があります。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)