Anthropic、著作権訴訟なぜ再び 「AI学習」と「海賊版取得」は何が違う?

2026年08月31日 09:53

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ソニーのロゴ。Sony Music Publishingなど音楽出版社35社が、著作権侵害を主張して米AI開発企業Anthropicなどを提訴した

今回のニュースのポイント

Sony Music Publishing (US)やWarner Chappell Musicなど35の音楽出版社は8月28日、米カリフォルニア州北部地区連邦地裁に米生成AI開発企業Anthropic、ダリオ・アモデイCEO、共同創業者ベンジャミン・マン氏を相手取った著作権侵害訴訟を起こしました。数万曲規模の歌詞や楽譜の無断取得・利用などを主張し、1作品あたり最大15万ドルの損害賠償等を求めています。今回の提訴は単発のトラブルではなく、2023年の大手音楽出版社による先行訴訟や、著者グループによる海賊版書籍取得をめぐる訴訟など、一連の権利侵害問題を背景として別の権利者が新たに起こした訴訟と位置付けられます。

本文
 米生成AIスタートアップ大手Anthropic(アンソロピック)を相手取った新たな大型著作権訴訟が提訴されました。

 訴訟記録によると、Sony Music Publishing (US)やWarner Chappell Musicをはじめ、EMI系、Hipgnosis系などを含む35の音楽出版社は2026年8月28日、米カリフォルニア州北部地区連邦地裁に訴状を提出しました。被告にはAnthropic PBC法人に加え、同社のダリオ・アモデイCEOおよび共同創業者のベンジャミン・マン氏の個人2人が含まれています。

 訴状において原告側は、数万曲規模の歌詞や楽譜について無断で取得・収集・利用されたと主張し、著作権侵害などに対する陪審裁判と、1作品あたり最大15万ドルの損害賠償などを求めています。これに対しAnthropic側は、音楽出版社側の主張に同意せず、法廷で争う意向を示しています。

■音楽出版社とAnthropicの争いは今回が最初ではない

 今回の提訴を「音楽業界が初めてAnthropicのAI学習を問題視した事件」と捉えるのは不正確です。

 すでに2023年10月、Universal Music Publishing Group、Concord Music Group、ABKCOなどの大手音楽出版社が、約500曲の歌詞をめぐる著作権侵害でAnthropicを相手取って提訴しています(後にカリフォルニア州の裁判所へ移送)。その後も2026年には別の音楽出版社によるAnthropicへの提訴が相次いでおり、今回の35社訴訟もそうした一連の動きの中に位置付けられます。

 今回の訴訟は、過去の訴訟とは原告となる音楽会社、対象とする著作物、請求の範囲などが異なる新たな独立した訴訟ですが、音楽出版社側とAnthropicとの間で続く知的財産権をめぐる対立の延長線上に位置しています。

■裁判記録に記載された「700万冊超」の取得問題

 今回提訴した35社の訴状において大きな背景として挙げられているのが、過去に著者グループとのクラスアクション訴訟(Bartz v. Anthropic)などの裁判記録で確認・記載されている大規模なデータ取得問題です。

 裁判資料や原告側の主張によると、Anthropic側は2021年以降、海賊版サイト「LibGen」からBitTorrent経由で500万冊を超える書籍データをダウンロードし、さらに「PiLiMi(Pirate Library Mirror)」から約200万冊を取得したとされています。

 今回の音楽出版社側は、そのようにして取得された大量の書籍データの中に、自社が著作権を保有する歌詞や楽譜などが含まれていたと主張し、新たに裁判を起こしたという経緯があります。

■「AI学習」と「データ取得」を切り分けた裁判例

 生成AIをめぐる一連の裁判で注目されるのが、裁判所が「AIによる著作物の学習利用」と「海賊版サイトからのデータ取得・保存」を区別して扱った点です。

 著者訴訟(Bartz訴訟)で裁判所は、同事件で問題となった書籍をLLMの訓練に利用するための複製についてフェアユースと判断する一方、海賊版ライブラリーから取得した書籍を中央ライブラリーとして保存する行為は別に扱いました。なお、この海賊版複製取得をめぐる著者側の請求については最終判決で確定したのではなく、2025年に和解合意に至り、その後、和解手続きが進められました。

 Bartz訴訟で重要なのは、裁判所が「AI訓練での利用」と「訓練などに使う著作物をどのように取得・保存したか」を別の問題として扱った点です。今回の35社による訴訟においても、AIによる生成結果だけでなく、「どのコピーを、どこから、どのような方法で取得したのか」というデータの入手過程が大きな焦点となります。

■先行訴訟の原告とは異なる35社による提訴

 海賊版データ取得をめぐる先行訴訟や和解が存在しながら、なぜ再び訴訟が起きるのかという点には理由があります。

 書籍という単一の媒体であっても、そこに掲載されている小説の本文と、掲載・収録されている歌詞や楽譜とでは、権利を保持している主体が異なります。著者グループが起こした訴訟と、音楽出版社が起こした訴訟では、守るべき著作物も訴える原告も別個の存在です。

 今回の原告は先行する著者訴訟の原告とは異なります。誰が、どの著作物について権利を主張しているのかを分けて見る必要があります。

■海賊版書籍だけにとどまらない独自の争点

 さらに、今回の35社による訴訟の対象は、海賊版書籍からのデータ取得問題だけに限定されません。

 訴状によると原告側は、インターネット上の各種歌詞共有サイト等からの無断収集行為、著作権管理情報(CMI)の削除や変更、さらに同社のAIモデル「Claude」がユーザーの指示に応じて歌詞を出力する挙動なども問題視しています。直接的な著作権侵害に加え、寄与侵害や著作権管理情報をめぐる法的責任など、複数の請求原因が含まれています。

■一連の訴訟から見える5つの法的論点

 これら一連の訴訟の流れを整理すると、生成AIと著作権をめぐる議論は、単に「AI学習の可否」にとどまらず、以下のような細分化された論点へ移行していることが分かります。

(1)著作物をどのような経路・サイトから取得したか

(2)取得された複製物(コピー)自体は適法か

(3)取得したデータをどのようにAI訓練へ利用したか

(4)生成AIが既存の著作物をどの程度再現して出力するか

(5)著作権管理情報や権利表示をどのように扱ったか

 SonyやWarner系など35社による今回の提訴は、生成AIをめぐる著作権紛争の一連の流れに位置付けられます。「誰の著作物を、どこから、どのように取得・利用したと主張されているのか」に加え、Claudeによる出力や著作権管理情報の扱いなど、複数の争点が今後の法廷で審理されることになります。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)