今回のニュースのポイント
国際エネルギー機関(IEA)が9月10日に公表した「Coal Mid-Year Update 2026」によると、2026年の世界石炭需要は前年比1.2%増の89億4000万トンとなり、過去最高を更新する見通しとなりました。IEAは昨年12月時点で同年の需要小幅減少を予測していましたが、今回上方修正に転じました。背景にあるのが中東情勢に伴う天然ガス市場の変動です。ホルムズ海峡を経由する石炭輸送自体はほぼゼロであるものの、同海峡を通るLNG(液化天然ガス)輸送の減少に伴い天然ガス価格が上昇した結果、一部の市場でガスから石炭へ発電燃料を切り替える動きが生じています。国別では韓国が前年比6%増へ上方修正されたほか、中国は1%増の50億トン、インドは4.2%増の13億5300万トンと予測されています。一方、日本は全体で1%減の1億6100万トンとなるものの、発電向け需要は従来想定を上回る推移を見せています。
本文
国際エネルギー機関(IEA)は9月10日、世界の石炭市場の現状と予測をまとめた「Coal Mid-Year Update 2026」を公表しました。同報告によると、2025年の世界石炭需要は前年比0.3%増の88億4000万トンと過去最高を記録しましたが、2026年はそこからさらに1.2%増加し、89億4000万トンへ拡大する見通しとなりました。IEAは前年末の公表時点では2026年の世界需要を小幅減少と予測していましたが、今回の見通し改定により減少予測から一転して過去最高を更新する試算が提示されました。
今回の予測修正をもたらした主な波及経路として挙げられるのが、中東情勢の緊迫化に伴う天然ガス市場の変動です。IEAの分析によれば、ホルムズ海峡を通過する石炭の海上輸送量はほぼゼロであり、中東自体も主要な石炭需給地域ではありません。しかし、同海峡の通行阻害によって世界的なLNG輸送量が大幅に減少し、天然ガス価格が上昇しました。世界の石炭消費の約3分の2は発電部門が占めているため、ガス火力発電設備と余剰の石炭火力設備を併せ持つ一部の市場において、発電コスト面から燃料をガスから石炭へ切り替える動向が生じ、石炭需要を押し上げる要因となりました。
この波及効果は日本を含む主要各国の需要推移にも表れています。IEAは日本の2026年の石炭需要について、前年比で1%減の1億6100万トンと試算しています。産業部門での需要減が影響し年間全体ではマイナス予測となるものの、発電向け需要に限れば小幅な増加傾向が見込まれています。原子力や再生可能エネルギーの発電量増加が進む一方で、天然ガス価格の上昇を受けて石炭火力の利用が従来の想定水準を上回って推移していることが背景として説明されています。
国別では、韓国の2026年石炭需要が従来の下落予測から一転して前年比6%増(1億1900万トン)へ拡大する見通しとなりました。原発の稼働率低下とガス高が重なり、1〜3月期の石炭火力発電量が前年同期比で約30%増加したことが寄与しています。また、世界需要の56%超を占める中国は前年比1%増の50億トン、インドは4.2%増の13億5300万トンと予測されています。
需要増加の要因は中東情勢のみにとどまりません。IEAは2026年に予測される強いエルニーニョ現象も需要押し上げ要因として挙げています。インドやベトナムなどでは、気温上昇による冷房需要の増加や水力発電量の低下を通じ、石炭需要を押し上げる可能性があるとしています。また中国では、原油高に伴い石油由来原料に対する石炭由来の化学製品のコスト優位性が高まり、石炭化学向けの消費が増加しました。
一方で、供給側である2026年の世界石炭生産量は前年比約2%減少すると予測されています。需要が増加する一方で生産量が減少することにより、近年の市場で見られた大規模な在庫積み増し傾向はいったん鈍化する見通しです。中国では5月に発生した炭鉱事故を受けた安全検査強化により、6〜7月の生産量が前年同期比約10%減少する場面もありました。
価格動向においては、オーストラリア・ニューキャッスル港渡しの一般炭スポット価格が2026年2月の1トンあたり115ドルから6月には139ドルまで上昇し、8月時点では131ドル前後で推移しています。天然ガス高やインドネシアの輸出規制をめぐる不透明感などが上昇要因として挙げられています。ただし、2022年のエネルギー危機時に記録した1トン400ドル超という水準と比較すれば大幅に低い位置にあり、過去の急騰期とは異なる水準にあります。
今回の過去最高更新見通しには、天然ガス価格や気象要因、各国の政策措置など複数の要因が影響しています。IEAの基本シナリオでは、中東情勢が緩和し、ホルムズ海峡を通るLNG輸送量が危機前の水準に向けて徐々に回復して天然ガス価格が2026年を下回る場合、2027年の世界石炭需要は0.4%減の89億1000万トンへ再び減少に転じると試算しています。一方でIEAは、2027年の需要見通しについても中東情勢や燃料価格、気象などを巡り不確実性が大きいとしています。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)













