スイス、建築許可に最大約500日 OECD、住宅不足でAI活用など改革提言

2026年09月16日 08:22

スイス住宅事情

建築許可の審査と住宅供給を表現したイメージ。OECDによると、スイスでは建築申請から許可交付まで全国平均で140日を要し、ジュネーブ州では497日に達する。OECDは手続きの電子処理拡大や、AIを活用した用途規制・建築基準への適合性評価などを提言している。(画像はイメージ)

今回のニュースのポイント

経済協力開発機構(OECD)が発表したスイス経済審査報告書「OECD Economic Surveys: Switzerland 2026」は、スイスの2026年の実質GDP成長率を2.0%、2027年を1.4%と予測しました。消費者物価上昇率は両年とも0.6%と低水準を見込む一方、都市部を中心に住宅不足が深刻化しています。OECDは一因として複雑な建築規制や許可手続きを挙げ、ジュネーブ州では建築許可に497日(全国平均140日)を要すると指摘。手続きの電子処理の拡大に加え、AIを使った建築基準への適合性評価などを提言しました。

本文
 経済協力開発機構(OECD)は2026年9月、最新のスイス経済審査報告書「OECD Economic Surveys: Switzerland 2026」を公表しました。報告書は、スイス経済が低インフレ下で安定した成長を維持する一方、主要都市を中心に深刻な住宅不足と賃貸コストの上昇に直面していると分析し、供給面での構造改革を提言しています。

■GDPは2.0%増予測、物価上昇率は0.6%

 報告書によると、スイスの実質GDP成長率は2024年の1.5%、2025年の1.6%を経て、2026年には民間消費などの内需に支えられて2.0%へ伸びが高まると予測されています。その後、2027年は1.4%へ落ち着く見通しです。

 消費者物価指数(CPI)上昇率は2026年、2027年ともに前年比0.6%と予測されており、他国と比較してきわめて低い物価上昇率が続く見込みです。一方で、2026年の輸出は0.3%減、総固定資本形成は0.2%減が予測されるなど外需や投資には慎重姿勢が残り、経済全体が一様に強い状態にあるわけではありません。

■住宅空室率1.0%、チューリヒはわずか0.1%

 景気が底堅く推移する一方、住宅市場では供給が需要の増大に追いつかず、需給の逼迫が続いています。スイス連邦住宅局(BWO)の定義では、市場に供給されている空室率が1%未満となると住宅不足と判定されますが、スイス全体の空室率は2025年6月時点で1.0%まで低下し、基準値に迫っています。

 都市別ではさらに深刻で、チューリヒが0.1%、ベルンが0.5%、ローザンヌとジュネーブが0.6%と明確に1%を下回っています。なお、この空室率は、空室で、売却または3カ月以上の賃貸として市場に出ている住宅を対象とするスイス独自の統計定義に基づきます。

■必要5万戸に対し、新築見込みは約4万2000戸

 需要拡大に対し、住宅供給の伸びは極めて緩やかです。OECDによると、スイスの新築住宅供給はこの10年間ほとんど増えていません。

 2025年に完成する新築住宅について、スイス建設業者協会(SBV)は約4万2000戸にとどまると予測したのに対し、連邦住宅局は需要に対応するためには年間5万戸が必要との見解を示しています。OECDは、住宅需要に対する供給の反応の遅さを、住宅不足や住宅取得・賃借の負担をめぐる重要な課題として挙げています。

■ジュネーブ州では許可取得までに497日

 供給遅延の背景として、OECDは州や自治体ごとに建築基準や建設法が大きく異なり、複雑な手続きが障壁になっている点を挙げています。

 OECDによると、建築申請から許可交付までの期間は全国平均で140日ですが、ジュネーブ州では497日に達し、チューリヒ州は214日、バーゼル=ラント準州は201日でした。一部の州で許可取得までに最大500日近くを要していることが供給遅延の一因とされています。また、許可取得後も法的な異議申し立てによって着工が遅れる場合があります。OECDが引用した研究では、建築許可を取得済みでありながら、まだ実現していないプロジェクトが約10%あると推計されています。

■AIで用途規制や建築基準への適合性を評価

 こうした事態を受け、OECDは州間での建築基準の明確化や簡素化とともに、デジタル技術を活用した許可手続きの迅速化などを提言しました。

 具体的施策として、電子処理の利用拡大に加え、AIを活用して設計図や申請データが地域の用途規制・建築基準に適合しているかを評価する仕組みの開発を挙げています。参考事例として、2025年4月に米カリフォルニア州ロサンゼルスで導入されたAI審査ツール「e-check」を紹介し、定型的な適合確認をAIで自動化することで、人間の審査担当者がより複雑な案件に集中できる環境を整えるべきだと提示しています。

 スイス経済は安定した成長と低インフレを享受する一方、住宅供給の構造的な遅れという懸念を抱えています。OECDが示したAI活用や規制調和といった供給側改革の提言を、スイスの各州や自治体がどのように制度設計へ取り入れていくかが今後の焦点となります。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)